この記事のポイント
- 請求できるのは慰謝料だけではありません。治療費や休業損害、逸失利益、車の修理費など、損害を項目ごとに計算し、その合計を請求します。
- 同じ項目でも、自賠責保険・任意保険・裁判の3つの基準のどれで計算するかで、受け取れる額は大きく変わります。示談書に署名する前に、裁判の基準で計算し直して比べてください。
- 持病や既往症(素因減額)、受け取った保険金など(損益相殺)、ご自身の過失(過失相殺)で賠償額が減ることがあり、請求には時効もあります。
交通事故でけがをしたときに相手に請求できるのは、慰謝料だけではありません。治療費や通院の交通費、仕事を休んだ分の収入、後遺障害が残ったときの将来の収入の減少分、車の修理費など、損害を項目ごとに計算し、その合計を請求します。同じ項目でも、どの基準で計算するかによって、受け取れる額は大きく変わります。
この頁では、請求できる損害の全体像、自賠責保険・任意保険・裁判の3つの基準の違い、休業損害と逸失利益の計算の例、賠償額が減る場面と時効を、交通事故を扱う弁護士がまとめました。項目ごとの詳しい解説は、頁の下の「この分野の解説記事」からご覧ください。
請求できる損害には、何がある?


損害は、けがの治療中、後遺障害が残ったとき、亡くなったとき、車などの物の損害に分けて考えます。
裁判で使われる基準(いわゆる赤い本)による主な項目は、次のとおりです。この頁のかっこ内の頁は、特に断りのない限り、赤い本 2020年版 上巻の頁です。
| 項目 | 裁判の基準での考え方 |
|---|---|
| 治療費 | 必要で相当な実費の全額(1頁) |
| 通院交通費 | 電車・バスの料金。症状などからタクシーが相当なときはタクシー代、自家用車は実費相当額(41頁) |
| 入院雑費 | 1日1,500円(40頁) |
| 休業損害 | けがで仕事を休んだことによる収入の減少分(73頁) |
| 入通院慰謝料 | 入院・通院の期間から表で計算(192頁〜194頁) |
| 後遺障害慰謝料 | 等級ごとの目安。14級110万円から1級2,800万円まで(196頁) |
| 後遺障害の逸失利益 | 基礎収入(事故の前の年収など)× 労働能力喪失率 × ライプニッツ係数(99頁・100頁) |
| 将来介護費 | 必要があれば、職業付添人は実費、家族の介護は1日8,000円が目安(24頁) |
| 葬儀費 | 原則150万円(63頁) |
| 死亡逸失利益 | 基礎収入 ×(1 − 生活費控除率)× ライプニッツ係数(159頁) |
| 死亡慰謝料 | 一家の支柱2,800万円など(185頁) |
| 車の修理費・買替差額 | 適正な修理費。経済的全損なら買替差額(237頁・238頁・240頁) |
| 評価損・代車使用料・休車損 | 下の「車などの物の損害」で説明(245頁、249頁、252頁) |
| 弁護士費用 | 裁判では、認められた額の10%程度(72頁) |
けがの治療中の損害は?

症状固定(治療を続けても、これ以上よくならないと判断された状態)のあとの治療費は、認められないことが多くなりますが、支出が相当といえるときは認められることもあります(7頁)。
休業損害は、立場によって計算の仕方が違います。
詳しくは休業損害の請求について(主婦・会社員・自営業)をご覧ください。
入院・通院の慰謝料は、入院と通院の期間をもとに表で計算し、むちうちで他覚所見がない場合などは金額の低い表を使います。通院が長い期間に及ぶときは、実際に通院した日数の3.5倍程度(低い表では3倍程度)を、表に当てはめる通院期間として使うこともあります(192頁〜194頁)。
後遺障害が残ったときの損害は?

介護が必要な後遺障害が残ったときは、医師の指示や症状の程度から必要があれば、将来の介護費も認められます(24頁)。等級の仕組みと認定の手続は交通事故の後遺障害で説明しています。
亡くなったときの損害は?
亡くなった方の逸失利益は、収入から本人の生活費にあたる割合を差し引いて計算します。差し引く割合(生活費控除率)の目安は、次のとおりです(159頁、177頁・178頁)。
- 一家の支柱で、扶養していた家族が1人:40%
- 一家の支柱で、扶養していた家族が2人以上:30%
- 女性(主婦、独身、幼児などを含む):30%
- 男性(独身、幼児などを含む):50%
死亡慰謝料の目安
- 一家の支柱:2,800万円
- 母親・配偶者:2,500万円
- それ以外の方:2,000万円〜2,500万円
この額は、父母・配偶者・子などご遺族の分も含めた総額です(185頁、民法711条)。
詳しくは死亡事故の慰謝料の相場についてをご覧ください。
車などの物の損害は?

修理をしても見た目や性能に問題が残る場合や、事故を起こした車として売値が下がると見込まれる場合には、評価損(格落ち)が認められることがあります(245頁)。
レンタカーなどの代車の費用は、修理や買い替えに必要な相当の期間の分が認められます。修理の場合、その期間はおおむね1〜2週間とされることが多く、部品の取り寄せなどが必要なときは、より長く認められることもあります。営業車(緑ナンバーなど)が使えなかった間の損害は、休車損として請求します(249頁、252頁)。
物の損害で気をつけたいこと
物の損害の慰謝料は、原則として認められません(262頁)。自賠責保険は人の生命・身体の損害が対象で、物の損害には使えません(自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」)3条・11条1項)。
詳しくは物損事故の被害者が請求できる賠償金をご覧ください。
3つの基準(自賠責保険・任意保険・裁判)は、どう違う?

- けがは120万円、死亡は3,000万円、後遺障害は等級ごとの額と、支払われる額に上限があります(自賠法施行令2条1項)。
- 任意保険会社の提示額が、自賠責保険の基準で計算されていた例も紹介されています(日弁連交通事故相談センター「任意保険会社から提示を受けた慰謝料額についての相談(2)」)。
主な項目を比べると、次のとおりです。
| 項目 | 自賠責保険の基準 | 裁判の基準(赤い本) |
|---|---|---|
| 入通院慰謝料 | 1日4,300円 × 対象日数(けがの状態や実際に治療を受けた日数などを考えて、治療期間の範囲内で決まる) | 期間から表で計算。通院だけ6か月なら116万円、むちうちで他覚所見がない場合などは89万円(193頁・194頁) |
| 休業損害 | 原則1日6,100円。収入の資料で証明すれば1日1万9,000円まで | 事故の前の収入をもとに、実際の収入の減少分(73頁) |
| 後遺障害慰謝料 | 14級32万円、12級94万円 | 14級110万円、12級290万円(196頁) |
| 死亡慰謝料 | 本人400万円と、ご遺族の分550万円〜750万円(被扶養者がいれば200万円を加算) | 一家の支柱2,800万円、母親・配偶者2,500万円、その他2,000万円〜2,500万円(185頁) |
| 葬儀費 | 100万円 | 原則150万円。これより少ないときは実際に支出した額(63頁) |
| 被害者の過失 | 7割未満なら減額しない | 過失の割合に応じて減額(民法722条2項) |
自賠責保険の欄は、支払基準(435頁〜440頁)、国土交通省「自賠責保険・共済の限度額と補償内容」と自賠法施行令3条の2によります。自賠責保険から支払われる分を超える損害は、相手や相手の任意保険会社に請求します。

慰謝料の基準の違いは後遺障害の慰謝料計算基準の比較と計算方法でも説明しています。
休業損害と逸失利益は、どう計算する?
数字は、説明のための仮のものです。
休業損害の計算の例(会社員の場合)

- 1日あたりの収入:90万円 ÷ 60日 = 1万5,000円
- 休業損害:1万5,000円 × 40日 = 60万円
1日あたりの額の出し方に注意
実際に働いた日の1日あたりの収入に、実際に休んだ日数を掛ける方法です。このほか、休日を含む期間の1日あたりの平均額(この例の3か月を90日とすると、90万円 ÷ 90日 = 1万円)に、休日を含む休業の期間を掛ける方法もあります。休日を含む平均額に、実際に休んだ日数だけを掛けると、休業損害が少なく計算されるおそれがあります(赤い本 2018年版 下巻 37頁〜39頁)。
逸失利益の計算の例(後遺障害が残ったとき・亡くなったとき)
ライプニッツ係数とは
逸失利益は、将来の収入を前もって一度に受け取るため、その間の利息にあたる分をライプニッツ係数で差し引きます(99頁・100頁)。
係数は請求権が生じた時の法定利率で計算し(民法417条の2、722条1項)、令和2年4月1日から令和11年3月31日までの事故では年3%、それより前の事故では年5%です(民法404条、159頁、法務省「令和8年4月1日以降の法定利率について」)。
症状固定の時または亡くなった時に40歳、事故の前の年収500万円の方を例にします。係数は年3%の表で、67歳までの27年が18.3270、5年が4.5797です(429頁)。
= 1,282万8,900円
= 114万4,925円
= 6,414万4,500円
後遺障害の逸失利益では、原則として生活費を差し引きません(100頁)。むちうちの場合は、労働能力を失う期間を67歳までとせず、12級は10年程度、14級は5年程度に限る裁判例が多く見られます(99頁)。上の14級の例を5年としたのは、このためです。
自賠責保険から支払われる後遺障害の分は、慰謝料と逸失利益などを合わせて、12級で224万円、14級で75万円が上限です(自賠法施行令 別表第二)。職業ごとの計算は交通事故の逸失利益とは?職業別の計算方法で説明しています。
賠償額が減るのは、どんなとき?
持病や既往症があるとき(素因減額)


最高裁判所の判断
- 以前からの病気:事故と、被害者が以前からかかっていた病気とがともに原因となって損害が生じ、病気の態様や程度などから加害者に損害の全部を賠償させるのが公平でないときは、賠償額を決めるにあたり、過失相殺の規定(民法722条2項)を類推適用して、その病気を考慮できるとしています(最高裁判所平成4年6月25日第一小法廷判決(昭和63年(オ)第1094号)・民集46巻4号400頁)。
- 体の特徴:平均的な体格や通常の体質と違う体の特徴(首が長いなど)は、病気に当たらないときは、特別の事情がない限り考慮できないとしています(最高裁判所平成8年10月29日第三小法廷判決(平成5年(オ)第875号)・民集50巻9号2474頁)。
- 心の傾向(心因的要因):損害が事故だけから通常生じる程度や範囲を超えていて、損害が広がったことに被害者の心因的要因が関わっているときは、同じく過失相殺の規定を類推適用して考慮できるとしています(最高裁判所昭和63年4月21日第一小法廷判決(昭和59年(オ)第33号)・民集42巻4号243頁)。
自賠責保険にも、既往症などのために事故と死亡・後遺障害との因果関係の判断が難しいときに、5割を減額する定めがあります(440頁)。画像に写る椎間板の変化を「事故の前からのもの」と言われたときは、首・背中・腰の後遺障害もご覧ください。
労災保険や保険金を受け取ったとき(損益相殺)
事故のために受け取ったお金のうち、損害を埋める性質のものは、賠償額から差し引かれます。これを損益相殺といいます(267頁)。
- 受け取った自賠責保険金
- 労災保険の療養・休業・障害などの補償給付
- 健康保険の傷病手当金
- 遺族厚生年金など
- 労災保険の休業特別支給金・障害特別支給金などの特別支給金(268頁。最高裁判所平成8年2月23日第二小法廷判決(平成6年(オ)第992号)・民集50巻2号249頁)
- 生命保険金、搭乗者傷害保険金、社会儀礼上相当な額の香典・見舞金(63頁、269頁)
差し引くのは、同じ性質の損害からだけです。たとえば労災保険の休業補償給付や障害補償給付は、休業損害や逸失利益からは差し引かれますが、慰謝料や治療費からは差し引かれません(270頁・271頁)。
労災保険の給付と示談
先に賠償を受けるとその分の労災保険の給付は行われず、示談で損害の全部を解決すると、労災保険の給付が受けられなくなることがあります(労災保険の実務と手続き最強ガイド 改訂2版 74頁・75頁)。詳しくは交通事故で労災保険は使わない方が良いの?をご覧ください。
ご自身の人身傷害保険から保険金を受け取ったときについて、最高裁判所は、被害者に過失があっても、保険金と、相手に請求できる賠償額(過失相殺後)とを合わせて、民法上認められるべき過失相殺前の損害額(裁判基準損害額)を確保できるよう、保険会社が相手への請求権を引き継ぐ(代位する)のは、その合計がこの損害額を上回る部分に限られるとしました(最高裁判所平成24年2月20日第一小法廷判決(平成21年(受)第1461号・第1462号)・民集66巻2号742頁)。
この判決は、保険会社が引き継ぐ範囲は保険の約款の定めによるとしています。また、賠償金を先に受け取ってから人身傷害保険金を請求したときに、受け取った賠償金をどう差し引くかは、見解が分かれています(276頁)。
被害者にも過失があるとき(過失相殺)

いつまで請求できる?(時効)
交通事故の損害賠償の請求権は、次の期間を過ぎると時効で消えます。
- 3年車などの物の損害:損害と加害者を知った時から3年(民法724条1号)
- 3年自賠責保険への被害者請求:損害と相手の車の保有者を知った時から3年(自賠法19条)
- 5年けが・死亡の損害:損害と加害者を知った時から5年(民法724条1号・724条の2)
- 20年どちらも(けが・死亡の損害と物の損害):事故の時から20年(民法724条2号)
示談の話し合いが長引いているときや、後遺障害の申請に時間がかかっているときは、時効の期間が迫っていないか確かめてください。
請求には、どんな資料が要る?
そろえておきたい資料
- 交通事故証明書:人身事故は事故から5年、物件事故は3年を過ぎると取れなくなるとされています(赤い本 2020年版 下巻 191頁)。
- 診断書・診療報酬明細書・領収書:治療費と入院・通院の期間の裏付けです。通院のタクシーや駐車場の領収書も残してください。
- 収入の資料:会社員は休業損害証明書と源泉徴収票、自営業の方は確定申告書の控えなど。
- 後遺障害診断書と等級の認定の結果
- 車の修理の見積書・写真、代車やレッカーの領収書
- 保険や労災保険から受け取ったお金の明細:差し引かれる額を確かめるために使います。

こんなときはご相談ください

ひとつでも当てはまったら
- 保険会社から示談の提示額が届いたが、妥当か分からない
- 保険会社から治療費の打ち切りを告げられた(治療費打ち切りへの対処方法)
- 家事をしている、自営業である、などで休業損害の計算の仕方が分からない
- 持病や以前のけがを理由に、賠償額を減らすと言われた
- 労災保険や人身傷害保険を使ったときの、差し引きの仕方が分からない
- 車の評価損(格落ち)や代車の期間で、話がまとまらない
- ご家族が亡くなり、何を請求できるのか知りたい
- 事故から時間がたち、時効が心配
参考文献
- 民法404条、417条の2、709条、711条、722条、724条、724条の2
- 自動車損害賠償保障法 3条、11条1項、16条の3第1項、19条
- 自動車損害賠償保障法施行令 2条1項、3条の2、別表第二
- 自賠責保険の支払基準(令和2年4月1日以降の事故に適用するもの。赤い本 2020年版 上巻 435頁〜440頁に所収)
- 公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(赤い本)2020年版 上巻 1頁、7頁、24頁、40頁・41頁、63頁、72頁・73頁、80頁、88頁、99頁・100頁、159頁、177頁・178頁、185頁、192頁〜194頁、196頁、237頁・238頁、240頁、245頁、249頁、252頁、262頁、267頁〜271頁、276頁、289頁、429頁、435頁〜440頁
- 武富一晃「給与所得者の休業損害を算定する上での問題点」同 2018年版 下巻(講演録編)37頁〜39頁
- 同 2020年版 下巻(講演録編)191頁
- HRプラス社会保険労務士法人『労災保険の実務と手続き最強ガイド 改訂2版』(アニモ出版)74頁・75頁
- 最高裁判所昭和63年4月21日第一小法廷判決(昭和59年(オ)第33号)・民集42巻4号243頁
- 最高裁判所平成4年6月25日第一小法廷判決(昭和63年(オ)第1094号)・民集46巻4号400頁
- 最高裁判所平成8年2月23日第二小法廷判決(平成6年(オ)第992号)・民集50巻2号249頁
- 最高裁判所平成8年10月29日第三小法廷判決(平成5年(オ)第875号)・民集50巻9号2474頁
- 最高裁判所平成24年2月20日第一小法廷判決(平成21年(受)第1461号・第1462号)・民集66巻2号742頁
- 国土交通省「自賠責保険・共済の限度額と補償内容」
- 公益財団法人日弁連交通事故相談センター「任意保険会社から提示を受けた慰謝料額についての相談(2)」
- 法務省「令和8年4月1日以降の法定利率について」



