この記事のポイント
- 脊髄の損傷は、傷ついた高さと程度で障害の重さが大きく変わります。等級は、介護が必要な1級・2級から、軽い麻痺の12級まで分かれます。
- 麻痺の等級は、どの動作が、どこまで一人でできるかで分かれます。CRPSは、痛みが仕事にどれだけ差し支えるかで7級・9級・12級に認定されます。
- 認めてもらうには、事故の直後からの神経の所見、MRI、神経学的検査、日常生活の動作の記録が大切です。介護が必要なときは、将来介護費も請求できます。


交通事故で背骨の中を通る脊髄が傷つくと、手足の麻痺やしびれ、排尿・排便の障害などが残ることがあります。どの高さの脊髄が、どのくらい傷ついたかによって障害の重さは大きく異なり、認められる等級も、介護が必要な1級・2級から、軽い麻痺の12級まで幅広く分かれます。
この頁では、脊髄損傷、腕や脚の神経(末梢神経)の損傷、けがのあとに強い痛みが続くCRPSについて、認められる等級、賠償の目安、必要な検査と資料を、交通事故を扱う弁護士がまとめました。
脊髄・神経のけがには、どんなものがある?
脊髄損傷とは? 完全損傷と不全損傷
脊髄は、背骨の中のトンネル(脊柱管)を通って脳と体の各部をつなぐ神経の束です。傷つくと、その高さより下の体が動かしにくくなり、感覚も鈍くなります。自律神経も障害され、血圧や体温の調節、排尿・排便がうまくいかなくなることもあります(標準整形外科学 第14版 841頁、標準リハビリテーション医学 第4版 255頁)。
首の脊髄(頚髄)の損傷では両手両足に(四肢麻痺)、胸や腰の脊髄の損傷では体幹と両脚に(対麻痺)麻痺が出ます(標準リハビリテーション医学 第4版 255頁・256頁)。交通事故で脊髄損傷となった方へでも解説しています。
どちらに当たるかは、肛門のまわりの感覚や、肛門を締める力が残っているかで見分けます。受傷の直後は、傷ついた高さより下の反射がすべて消える「脊髄ショック」の時期があり、見分けはこの時期を過ぎてから行います(標準整形外科学 第14版 843頁・844頁、標準リハビリテーション医学 第4版 262頁)。
不全損傷では、時間とともに回復していくことがあります。
- 半年
まで運動の機能の回復は、おもに受傷から半年の間に進むとされています(標準整形外科学 第14版 848頁) - 1年
以内脊髄損傷の方の半数以上が、受傷から1年以内に、神経の傷による慢性の痛みを抱えるようになるとの報告もあります(神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第3版 116頁) - 2年
ほど長い場合は、回復が2年ほどまで続くことがあるとされています(標準整形外科学 第14版 848頁) - 症状
固定時期は、経過を見ながら主治医とよく相談してください(症状固定とは何か)
回復するだけでなく、悪くなることもあります
手足の突っ張り(痙性)や痛みが少しずつ強くなり、できていた動作ができなくなることもあります(標準整形外科学 第14版 845頁)。
中心性脊髄損傷

非骨傷性頚髄損傷(骨折のない頚髄損傷)
背骨の骨折や脱臼がないのに脊髄が傷つくものを非骨傷性脊髄損傷といい、首に起きたものを非骨傷性頚髄損傷と呼びます(標準整形外科学 第14版 841頁)。
高齢の方では、年齢による変化や後縦靱帯骨化症などで脊柱管が狭くなっていて、首が強く後ろに反らされるといった、それほど大きくない力でも脊髄が傷つくことがあります(標準整形外科学 第14版 841頁・842頁、ペインクリニック医のための痛みの診断手順 177頁)。


骨折が写らないため、事故との関係や、もともとの首の状態の影響が争われやすく、賠償額を減らすべきだ(素因減額)と主張されることもあります。裁判官の講演では、裁判例が次のように整理されています(赤い本2009年版下巻 55頁・57頁)。
腕や脚の神経(末梢神経)の損傷

神経の傷つき方と回復
傷つき方には、次のようなものがあります。
- 一時的に信号が伝わりにくくなっただけで、ほぼ自然に治るもの
- 神経の中の線維(軸索)が切れたが、時間をかけて回復しうるもの
- 神経そのものが断たれ、手術をしなければ回復しないもの
どれに当たるかを確かめるには、筋電図や神経伝導検査が欠かせません(標準整形外科学 第14版 862頁・863頁)。
CRPS(複合性局所疼痛症候群)

進むと関節が固まり、皮膚や骨がやせてくることがあります(ペインクリニック医のための痛みの診断手順 52頁〜54頁)。CRPS(RSD、カウザルギー)についてでも解説しています。
何級の後遺障害が認められる?
等級は自動車損害賠償保障法施行令の別表第一(介護を要する後遺障害)と別表第二で決まっており、その判断は、原則として労災保険の認定基準に準じて行われます(自賠責保険の支払基準 第3)。
脊髄損傷では、麻痺の範囲と程度を基本に、通常伴う排尿の障害なども含めて等級が決まり、3級以上に当たるときは介護の要否と程度も踏まえて認定されます。
| 等級 | 後遺障害の内容(別表の文言) | 麻痺の目安(労災保険の認定基準) |
|---|---|---|
| 別表第一 1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの | 高度の四肢麻痺・対麻痺。中等度の四肢麻痺・対麻痺で、食事・入浴・トイレ・着替えなどに常に介護が必要なもの |
| 別表第一 2級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの | 中等度の四肢麻痺。軽度の四肢麻痺や中等度の対麻痺で、食事・入浴・トイレ・着替えなどに随時介護が必要なもの |
| 別表第二 3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの | 身の回りの動作はできるが、働くことができないもの(軽度の四肢麻痺、中等度の対麻痺) |
| 別表第二 5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 軽度の対麻痺、片脚の高度の単麻痺 |
| 別表第二 7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 片脚の中等度の単麻痺 |
| 別表第二 9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 片脚の軽度の単麻痺 |
| 別表第二 12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | 動かす力、支える力、細かい動作や速さにほとんど支障のない軽い麻痺。動きの障害はなくても、広い範囲に感覚の障害があるもの |
麻痺の「高度・中等度・軽度」はどう分かれる?
- 麻痺した腕では、500g程度の物を持ち上げられない、または字を書けない
- 片脚の麻痺なら、杖や硬い装具がないと階段を上れない
- 両脚の麻痺なら、杖や硬い装具がないと歩くのが難しい
- 麻痺した腕では、字を書くのに苦労する
- 片脚の麻痺なら、ふだんはおおむね一人で歩けるが、不安定で転びやすく遅い
- 両脚の麻痺なら、杖や硬い装具がないと階段を上れない
認定基準はこのように説明しており、どの動作が、どこまで一人でできるかが等級を分けます。
排尿・排便など内臓の障害や、背骨の変形・動きの障害による等級のほうが、麻痺で判断した等級より重いときは、それらを総合して等級が決まります(労災保険の認定基準)。
CRPSと末梢神経の損傷は何級になる?
CRPSは、痛みが仕事にどれだけ差し支えるかで次の3段階に認定されます。
| 等級 | 痛みの程度(認定基準の考え方) |
|---|---|
| 7級4号 | 軽い仕事以外の仕事には、いつも差し支える程度の痛み |
| 9級10号 | ふつうの仕事はできるが、痛みのために時には働けなくなり、就ける仕事の範囲が相当に限られるもの |
| 12級13号 | ふつうの仕事はできるが、時には仕事に差し支える程度の痛みが起こるもの |
神経の損傷を伴わないタイプ(RSD)で求められる3つの所見
- 関節拘縮(関節が固まる)
- 骨萎縮(骨がやせる)
- 皮膚の変化(皮膚の温度が変わる、皮膚がやせる)
この3つが、いずれも、けがをしていない側と比べてはっきり認められることが条件です(労災保険の認定基準)。

診断の基準と、等級の認定の基準は違います
医師が診断に使う基準には骨萎縮が入っていないため、主治医にCRPSと診断されても、自賠責保険で等級が認められないことがあります(赤い本2013年版下巻 24頁)。
厚生労働省の研究班がまとめた日本版の判定指標も、その但し書きで、補償や訴訟の場面で使うものではなく、後遺障害の有無を判定するものでもないとしています(ペインクリニック医のための痛みの診断手順 54頁)。裁判でも、3つの所見がそろわない場合の判断は分かれています(赤い本2013年版下巻 25頁・26頁)。
末梢神経の損傷による麻痺は、原則として、その神経が動かしている部分の障害(関節が動かない、指が曲がらないなど)の等級で認定されます(労災保険の認定基準)。肩・腕・手の後遺障害と骨盤・脚・足の後遺障害をご覧ください。
賠償はいくらが目安?
| 等級 | 後遺障害の慰謝料(裁判の基準) | 労働能力喪失率 |
|---|---|---|
| 1級 | 2,800万円 | 100% |
| 2級 | 2,370万円 | 100% |
| 3級 | 1,990万円 | 100% |
| 5級 | 1,400万円 | 79% |
| 7級 | 1,000万円 | 56% |
| 9級 | 690万円 | 35% |
| 12級 | 290万円 | 14% |
慰謝料は、裁判で使われる基準(いわゆる赤い本)の目安です。1級・2級などの重い後遺障害では、ご家族にも別に慰謝料の請求が認められています(赤い本2020年版上巻 196頁・209頁)。
このほか、将来の収入の減少分(逸失利益)を、事故の前の収入と労働能力喪失率、働ける年数から計算して請求します(交通事故の逸失利益とは?職業別の計算方法を弁護士がわかりやすく解説)。
将来の介護の費用(将来介護費)は?
介護が必要な後遺障害が残ったときは、症状固定のあとの介護の費用(将来介護費)を請求できます。裁判の基準では、医師の指示や症状の程度から必要なら認められ、目安は次のとおりです(赤い本2020年版上巻 24頁)。
- 実際の介護の状況により増減します
この額は常に介護が必要な場合を想定したもので、見守りや一部の手助けで足りる場合は減らされることがあります(赤い本2020年版下巻 8頁)。
介護の期間は原則として平均余命までとされ、将来の分を前もって受け取るため、その間の利息(中間利息)を差し引きます(赤い本2020年版下巻 8頁)。

別表で介護が必要とされるのは1級と2級だけですが、裁判では、3級以下でも、脊髄損傷などについて将来介護費が認められることがあります(赤い本2020年版下巻 8頁)。
車いすや介護用ベッドなどの費用(買い替えの分を含む)や、浴室・トイレ・出入口・自動車の改造の費用も、必要と認められれば請求できます(赤い本2020年版上巻 50頁・55頁)。ご家族の対応は交通事故で寝たきりに|家族がすべきこととはもご覧ください。
等級を認めてもらうには、どんな検査と資料が要る?

MRIのほかにそろえたい記録と検査
- 事故の直後からの神経の所見:救急で運ばれた時点から、手足の動き、感覚、反射がどう変わったかがカルテに残っていることが大切です。背骨のけがでは、感覚、筋力、腱反射、肛門の反射などを調べます(標準整形外科学 第14版 857頁)。
- 神経学的検査:MRIで傷ついた場所は分かっても、麻痺の高さや程度は画像だけでは判断できず、筋力、反射、感覚の診察結果が必要です(標準リハビリテーション医学 第4版 260頁・261頁)。
- 日常生活の動作の記録:食事・入浴・トイレ・着替え、歩く・階段、物を持つ・字を書くといった動作がどこまで一人でできるかを、後遺障害診断書や主治医の意見書に具体的に書いてもらいます。ご家族の介護の記録も役に立ちます。
- 排尿の検査:膀胱の造影や、膀胱の中の圧を測る検査などで状態を確かめます(標準リハビリテーション医学 第4版 258頁)。
- 末梢神経の検査:筋電図と神経伝導検査、ティネル徴候(再生していく神経の先端の辺りを皮膚の上から軽くたたくと、その神経の受け持つ範囲にしびれが走る所見。回復につれて手足の先の方へ移っていく)の経過を記録してもらいます(標準整形外科学 第14版 862頁・867頁)。
- CRPSの資料:両側を同じ条件で撮ったレントゲン(骨萎縮の比較)、サーモグラフィー(皮膚の温度に左右で1℃以上の差があるか)、関節の動く範囲の左右の比較、皮膚の写真などで3つの所見を示します(ペインクリニック医のための痛みの診断手順 53頁)。
こんなときはご相談ください

参考文献
- 自動車損害賠償保障法施行令 別表第一・別表第二
- 自賠責保険の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)第3、別表Ⅰ
- 厚生労働省労働基準局長通知「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」(平成15年8月8日基発第0808002号)
- 標準整形外科学 第14版(医学書院)500頁、748頁、841頁〜845頁、848頁、857頁・858頁、862頁〜864頁、867頁
- 標準リハビリテーション医学 第4版(医学書院)255頁、256頁、258頁、260頁〜262頁
- ペインクリニック医のための痛みの診断手順 52頁〜54頁、177頁
- 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第3版 116頁
- 脊椎MRI読影の一手 18頁〜20頁
- 日弁連交通事故相談センター東京支部『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(赤い本)2020年版上巻 24頁、50頁、55頁、196頁、209頁、2020年版下巻 8頁(鈴木秀雄)、2013年版下巻 24頁〜26頁(有冨正剛)、2009年版下巻 55頁・57頁(鈴木祐治)



