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主婦の休業損害の計算|交通事故で家事ができなかった分(専業・兼業)

執筆 弁護士 鈴木晶(神奈川県弁護士会所属) 公開

この記事のポイント

  1. 専業主婦・兼業主婦・主夫など、家族のために家事をしている人が、交通事故のけがで家事をできなかった分は、給料をもらっていなくても「休業損害」として請求できます。
  2. 額は「1日あたりの額 × 休んだ日数」。1日あたりの額は、自賠責保険の基準は原則6,100円ですが、裁判の基準では、令和7年の賃金センサスで計算すると1万1,974円になります。
  3. 日数も、通院した日だけで数えるか、治療を終えるまでの期間を区切って割合を下げながら数えるかで変わり、組み合わせしだいで同じけがでも2倍以上の差が出ます。
困った顔の女性のイラスト
ご相談者
専業主婦なので、お給料はもらっていません。事故のけがで家事ができなかった分は、請求できないのでしょうか?
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弁護士
「休業損害」として請求できます。額を大きく左右するのは、1日あたりの額と、休んだ日数の数え方の2つです。この頁では、専業・兼業・パートの計算例と、家事への支障を示す記録の付け方を、表とひな形で説明しますね。

主婦も休業損害を請求できる? 給料がなくても請求できます

 専業主婦・兼業主婦・主夫など、家族のために家事をしている人が、交通事故のけがで家事をできなかった分は、給料をもらっていなくても「休業損害」として請求できます。

 自賠責保険の支払基準は、家事をする人について「休業による収入の減少があったものとみなす」と定めています。裁判でも、女性の労働者の平均賃金(賃金センサス)をもとに、けがで家事ができなかった期間について休業損害が認められます(裁判の基準をまとめた、いわゆる赤い本 2020年版 上巻 88頁・436頁。以下、赤い本は同じ版の上巻)。

 休業損害は、けがの治療や療養のために働けなかったり、十分に働けなかったりして、治療の間に得られたはずの収入を得られなかった損害です(交通事故におけるむち打ち損傷問題 第3版 114頁。以下「むち打ち損傷問題」)。家事に給料は出ませんが、家族のためにする家事は、お金に換算できる働きと考えられています。

最高裁判所の判断:家事は財産上の利益をあげる働き

 最高裁判所は、事故で亡くなった女性の逸失利益について、家事労働の多くは他人に頼めば相当の対価を払わなければならないものであり、妻は自ら家事労働をすることで財産上の利益をあげているとしました。

 そのうえで、金額にするのが難しいときは、家事に専念する妻は、雇われて働く女性の平均的な賃金に相当する財産上の収益をあげるものと推定するのが適当だとしています(最高裁判所昭和49年7月19日第二小法廷判決(昭和44年(オ)第594号)・民集28巻5号872頁。齊藤顕「逸失利益の算定における賃金センサス」赤い本 2007年版 下巻(講演録編)112頁。以下「講演録2007」)。

 けがのために家事ができなかった期間についても、最高裁判所は、この判決を引いて、財産上の損害を受けたとした高等裁判所の判断を正当としています(最高裁判所昭和50年7月8日第三小法廷判決(昭和48年(オ)第739号)・集民115号257頁)。

家事従事者にあたる人・あたりにくい人

立場家事従事者としての請求出典
専業主婦・専業主夫できる。平均賃金をもとに計算する赤い本 88頁・91頁
パートや会社勤めをしながら家事をしている人(兼業)できる。実際の収入と平均賃金の高いほうをもとに計算する赤い本 88頁
同居の家族のために家事をしている高齢の人できる。年齢や家事の分担に応じて、もとにする額を下げる例が多い赤い本 88頁〜90頁、講演録2007 114頁〜116頁
一人暮らしで、自分のための家事だけをしている人原則として認められにくい。ただし一律に否定されるとは限らない赤い本 89頁、講演録2007 113頁・114頁
家族のための家事をしていない会社員・パートの人家事従事者ではなく、実際の収入の減少分を請求する赤い本 73頁

 家事をする相手には、配偶者だけでなく子どもも含めてよいという考え方が示されています(講演録2007 114頁)。家事をする人は女性に限られず、男性の家事従事者にも休業損害が認められています(赤い本 91頁、講演録2007 116頁)。

「主婦手当」「主婦休損」とは? 中身は休業損害です

 「主婦手当」「主婦休損」は正式な名前ではなく、中身は休業損害です。赤い本は、休業損害を「消極損害」(事故がなければ得られたはずの利益を失った損害)に分けており、治療費とも、けがの慰謝料とも別の項目です(赤い本 73頁)。

  1. 事故ここから、休業損害(主婦手当・主婦休損)と入通院慰謝料の対象になります
  2. 治療中休業損害は、けがで家事ができなかった、または家事の能率が落ちたこと。入通院慰謝料は、けがの痛みや、入院・通院の苦痛についてのものです
  3. 症状
    固定
    休業損害と入通院慰謝料の対象は、ここ(または治った日)まで
  4. その後後遺障害の等級が認められれば、後遺障害のために家事や仕事の力が落ちたことを逸失利益として、その後の分の慰謝料を後遺障害の慰謝料として考えます

 休業損害の対象になるのは、けがが治った日か、症状固定(治療を続けてもそれ以上よくならない状態)の日までで、その後も家事に支障が残り、後遺障害の等級が認められれば、その先の分は逸失利益として請求します(むち打ち損傷問題 116頁、大野眞穂子「兼業家事従事者の休業損害について」赤い本 2025年版 下巻(講演録編)84頁。以下「講演録2025」)。

 けがの慰謝料(入通院慰謝料)も、対象になるのは症状固定までの分で、その後の分は、後遺障害が認められたときに後遺障害の慰謝料として考えます(髙木健司「症状固定について」赤い本 2013年版 下巻(講演録編)9頁・10頁)。

1日あたりの額はいくら? 賃金センサスと自賠責の日額

積み上がるお金と女性のイラスト
休業損害は「1日あたりの額 × 休んだ日数」で計算します。1日あたりの額は、自賠責保険と裁判とで大きく違います。

自賠責保険の基準:原則1日6,100円

 令和2年4月1日以降の事故に使われる自賠責保険の支払基準では、休業損害は原則として1日6,100円で、家事をする人は、休業による収入の減少があったものとみなされます。

 資料によって6,100円を超えることが明らかなときは、1日1万9,000円を上限に実際の額が支払われます(赤い本 436頁、自動車損害賠償保障法施行令3条の2)。日数は、実際に休んだ日数を基準に、けがの様子や実際に治療を受けた日数などを考えて、治療期間の範囲内で決めます(赤い本 436頁)。

自賠責保険のけがの分は、合わせて120万円まで

 自賠責保険のけがの分は、治療費、休業損害、慰謝料などを合わせて120万円が上限です(自動車損害賠償保障法施行令2条1項3号イ)。治療費がかさむと、休業損害に回る分は少なくなります。

裁判の基準:女性の労働者の平均賃金(賃金センサス)

 裁判では、厚生労働省の賃金構造基本統計調査(賃金センサス)のうち、産業計・企業規模計・学歴計の女性の労働者の全年齢平均の賃金額をもとに、けがで家事ができなかった期間について休業損害を認めます(赤い本 88頁)。

 学歴によって家事の中身が変わるとは考えにくいため、学歴別ではなく全体(学歴計)の平均を使います(講演録2007 112頁)。年収は、毎月きまって支払われる給与の12か月分に、1年間の賞与などを足した額です(赤い本 425頁の表と同じ計算)。

調査の年女性・学歴計・全年齢平均の年収1日あたり(365日で割り、1円未満切り捨て)
令和5年399万6,500円1万949円
令和6年419万4,400円1万1,491円
令和7年437万700円1万1,974円

 表は、e-Stat で公表されている各年の賃金構造基本統計調査(一般労働者・産業大分類 第1表の産業計、民営事業所、企業規模計(10人以上)、女、学歴計)から計算しました。令和7年の値は令和8年3月24日の公表で、この記事の時点で最新です。値は年ごとに変わるので、保険会社の提示や計算ツールがどの年の値を使っているかも確かめてください。

2つの基準の違い

自賠責保険の基準
  • 1日あたりの額:原則6,100円(資料で明らかなら1万9,000円まで)
  • 兼業の場合:同じく原則6,100円
  • 日数:実際に休んだ日数を基準に、治療を受けた日数なども考えて、治療期間の範囲内
  • 上限:治療費・慰謝料などと合わせて120万円
裁判の基準
  • 1日あたりの額:女性・学歴計・全年齢平均の年収 ÷ 365日(令和7年の値なら1万1,974円)
  • 兼業の場合:実際の収入と平均賃金の高いほう
  • 日数:家事ができなかった期間。期間を区切って割合を下げることが多い
  • 上限:決まった上限はない

休んだ日数はどう数える? 通院日数か、期間で割合を下げるか

 家事には休んだ日を証明する勤め先がないため、何日分を休業とみるかが話し合いの中心になります。

 休業が必要だった日数を数える方法と、期間に家事ができなかった割合を掛ける方法があります。どちらの方法でも、適正な額を出すという目的は同じなので、結果も同じになるはずだとされています(むち打ち損傷問題 117頁)。

休んだ日数の数え方(イメージ)事故から症状固定までの期間を横の帯で表す。Aは通院した日で数える方法で、帯の中の通院した日だけを数える。通院しない日の家事のつらさは入らない。Bは期間を区切って割合を下げる方法で、入院中などは100%、その後は割合を下げ、さらに下げる。日数と割合を掛けたものを足して数えるので、通院しない日も期間に入る。事故症状固定A 通院した日で数える青い日(通院した日)だけを数える通院しない日の家事のつらさは入らないB 期間を区切って割合を下げる100%入院中など割合を下げるさらに下げる日数 × 割合を、期間ごとに足して数える通院しない日も、期間の中に入る
図 休んだ日数の数え方(イメージ。割合に決まった数字はありません)

4つの数え方を比べると

通院した日で数える
計算:1日の額 × 通院した日数
  • 見られる場面:自賠責保険は、実際に治療を受けた日数も考えて日数を決める(赤い本 436頁)
  • 気をつけること:通院しない日も家事がつらかったことが反映されない。通院した日以外にも休業が必要だったかは、事案ごとに判断される(むち打ち損傷問題 115頁)
期間を区切って割合を下げる
計算:1日の額 ×(期間①の日数 × 割合 + 期間②の日数 × 割合 + …)
  • 見られる場面:裁判例に多い(赤い本 88頁〜91頁)
  • 気をつけること:割合に決まった数字はない。家事への支障の記録が手がかりになる
期間の一部を休業日数とみる
計算:1日の額 × 治療期間のうち休業が必要だった日数
  • 見られる場面:むちうちの家事従事者では、症状固定までの期間の25%〜50%の日数を休業日数と認めた例も多いとされる(むち打ち損傷問題 118頁)
  • 気をつけること:どの程度の割合かは、けがの程度や家事の中身で変わる
入院中など、家事がまったくできない期間
計算:1日の額 × 日数(100%)
  • 見られる場面:入院の期間は、一般に休業の必要性が認められる(むち打ち損傷問題 114頁)
  • 気をつけること:むちうちなどで入院の必要性そのものが否定されることもある(同 114頁・115頁)
法律書と木槌のイラスト
むちうちの裁判例を分析した本では、家事をする人について、症状固定までの期間の全部を100%の休業とはみない傾向があるとされています。痛みやしびれで家事がはかどらなくなることはあっても、家事がまったくできなくなることは多くないので、期間に割合を掛ける考え方が合いやすい、という理由です(むち打ち損傷問題 118頁)。

 裁判でも、入院の期間などは100%とし、その後の期間は割合を下げていく形のものが多く見られます(赤い本 88頁〜91頁)。

「通院した日の分だけ」と言われたら

 保険会社から「通院した日の分だけ」と言われたら、通院しない日の家事への支障を、下のひな形のような記録で示してください。

専業・兼業・パートでいくらになる? 計算例

ここでの計算例は、仮の例です

 ここでの計算例は、計算のしかたを示すために置いた仮の例で、実際の事件ではありません。裁判の基準の1日あたりの額は、令和7年の値の1万1,974円で計算します。割合も仮に置いたもので、実際の割合はけがの程度や家事への支障によって決まります。

専業主婦:むちうちで6か月通院した場合

首を痛がる女性のイラスト
夫と子どもの3人暮らしで家事全般をしていた人が、追突されてむちうちになり、事故から180日で症状固定となり、その間に60日通院した場合を考えます。
計算のしかた計算休業損害
自賠責保険の基準(通院した日で数えた場合)6,100円 × 60日36万6,000円
裁判の基準・通院した日で数える1万1,974円 × 60日71万8,440円
裁判の基準・期間を区切って割合を下げる(最初の30日は100%、次の60日は50%、残りの90日は25%)1万1,974円 ×(30日 + 30日 + 22.5日 = 82.5日分)98万7,855円
参考:症状固定までの180日の25%〜50%を休業日数とみた場合1万1,974円 × 45日〜90日53万8,830円〜107万7,660円
専業主婦の計算例を比べる(仮の例)むちうちで事故から180日で症状固定となり、60日通院した仮の例。自賠責保険の基準で通院した日で数えると6,100円×60日で36万6,000円。裁判の基準で通院した日で数えると1万1,974円×60日で71万8,440円。裁判の基準で期間を区切って割合を下げると1万1,974円×82.5日分で98万7,855円。同じけがでも約2.7倍の差。自賠責保険の基準(通院60日)36万6,000円6,100円×60日裁判の基準(通院60日)71万8,440円1万1,974円×60日裁判の基準(割合を下げる)98万7,855円1万1,974円×82.5日分同じけがでも 約2.7倍の差
図 専業主婦・むちうちの計算例(仮の例)。割合は、最初の30日100%、次の60日50%、残りの90日25%

 同じけがでも、自賠責保険の基準と、裁判の基準で割合を下げて数えた計算とでは、約2.7倍の差があります。

兼業主婦(パート):手首の骨折で4か月治療した場合

手首を痛がる女性のイラスト
月10万円のパート(事故前3か月の給与30万円)をしながら家族の家事をしていた人が、手首を骨折した場合を考えます。固定具で手が使えない最初の45日はパートも家事もできず、その後の75日はパートに戻ったものの、重い物を持つ家事や細かい作業に支障が残り、事故から120日で症状固定となりました。
計算のしかた計算休業損害
パートの給与の減少分だけで計算30万円 ÷ 90日 = 3,333円(1円未満切り捨て)、3,333円 × 45日14万9,985円
家事従事者として計算(平均賃金のほうが高いので、こちらをもとにする。最初の45日は100%、その後の75日は40%)1万1,974円 ×(45日 + 30日 = 75日分)89万8,050円

兼業は「高いほう」をもとに、1つの休業損害として

 兼業の場合は、実際の収入と平均賃金の高いほうをもとに計算します(赤い本 88頁)。原則として、パートの減少分と家事の分を足し合わせるのではなく、高いほうの額をもとに、1つの休業損害として計算します。

収入が平均賃金より多い兼業主婦・勤め先での減収がなかった兼業主婦

 年収が平均賃金(令和7年の値で437万700円)を上回る人は、実際の収入のほうが高いので、実際の収入をもとに、勤め先を休んだことによる減収分を請求するのが基本です(赤い本 73頁・88頁)。勤め先の休業損害証明書と源泉徴収票を使います。

 勤め先での減収がなかった兼業の人は、実際の収入が平均賃金より低いかどうかで扱いが分かれます。

収入が平均賃金より低い人
パートなどで収入が平均賃金より低い人は、減収がなくても、平均賃金をもとに、家事への支障の程度に応じた割合で休業損害が認められます。
仕事を続けられたことは、その割合を考えるときの事情の一つになります(講演録2025 86頁・89頁・90頁、赤い本 91頁)。
  • 痛みをこらえて働いていたときは、その様子も記録に残してください。
収入が平均賃金と同じくらいか、それ以上の人
収入が平均賃金と同じくらいかそれ以上で、減収もなかった人は、損害が生じていないとして、休業損害は認められにくいとされています(講演録2025 90頁・92頁)。
ただ、収入が平均賃金と同じくらいか少し上回る程度の人については、年齢別の平均賃金を参考にして、一部を認める余地があるという見方も示されています(講演録2025 90頁・91頁)。

家族のための家事をしていないパートの人

 一人暮らしなどで家族のための家事をしていない人は、家事従事者としてではなく、給与をもらう人として、事故の前の収入をもとに実際に減った分を請求します(赤い本 73頁)。計算の仕方は休業損害の請求について(主婦・会社員・自営業)をご覧ください。

家事への支障はどう示す? 家事の記録の付け方

首をかしげる男の子のイラスト
ご相談者
家事には勤め先の証明がありません。家事ができなかったことは、どうやって示せばいいんでしょう?

 割合で考えるときの手がかりは、どの家事ができず、どの家事に時間がかかったかです。記憶だけでは、あとから具体的に説明するのは難しくなります。治療の初めから記録を付けてください。

そろえておく資料

  • 家族の構成が分かる資料:住民票など。誰のために家事をしていたかを示します。
  • 診断書・診療報酬明細書:けがの内容と、通院・入院の日を示します。
  • 主治医の記録:診察のときに家事への支障(「包丁が握れない」「洗濯物を干せない」など)を伝え、カルテに残してもらいます。
  • 家事の記録:下のひな形を使って付けます。
  • 代わりを頼んだ費用の領収書:家事代行、ベビーシッター、一時保育などの領収書と、頼んだ理由のメモ。
  • 兼業の人:勤め先の休業損害証明書、源泉徴収票。

家事の記録のひな形

日付体の状態できなかった家事時間がかかった家事・手伝ってもらった家事代わりにした人・頼んだサービスと費用通院・医師に伝えたこと
(記入例)○月○日首の痛みが強く、右腕がしびれる布団の上げ下ろし、浴室の掃除夕食の支度に普段の倍の時間がかかった夫が仕事の帰りに買い物整形外科。家事の途中で横になると伝えた
(記入例)○月○日朝は首が回りにくい。昼すぎから少し楽子どもの送り迎え洗濯物は少しずつ分けて干した一時保育(○○円)通院なし

 付けるときは、次の点に気をつけてください。

  • その日のうちに、短くてよいので書く
  • 炊事、洗濯、掃除、買い物、子どもの世話・送り迎え、家族の介護のように、家事ごとに分けて書く
  • できたことも書く(よくなっていく経過も、割合を考える手がかりになります)
  • 病院で伝えている症状と食い違わないようにする

慰謝料とは別にもらえる? 両方を請求できます

 休業損害は、けがの慰謝料(入通院慰謝料)とは別の項目なので、両方を請求できます。けがの慰謝料は、自賠責保険では1日4,300円(赤い本 436頁)、裁判の基準では入院・通院の期間から表で決まります(同 192頁)。

 裁判の基準には、家事をする人に関係の深い決まりもあります。幼い子どもがいるなど本人の側の事情で入院を特に短く切り上げたと認められるときは、慰謝料が増やされることがあります。また、ギプスで固定していて安静にしている必要がある自宅での療養の期間は、入院と同じに扱われることがあります(同 192頁)。相場は交通事故の慰謝料の相場、自賠責保険の計算は自賠責保険から払われる慰謝料とは?で説明しています。

書類を読んで困る女性のイラスト
ご相談者
保険会社から示談の案が届きました。休業損害の欄は、どこを見ればいいですか?

休業損害の欄で、必ず確かめる2つ

 後遺障害が認められたときの家事の分は逸失利益として請求します(交通事故の逸失利益とは?、後遺障害14級の慰謝料と逸失利益の計算方法)。請求できる損害の全体は交通事故で請求できる損害にまとめています。

よくある質問

夫(主夫)が家事をしていました。休業損害は請求できますか。

 できます。家事をする人は女性に限られません(講演録2007 116頁、赤い本 91頁)。家族の中で誰がどの家事を担っていたかを、住民票や家事の記録で示してください。

70代の母が家族のために家事をしていました。請求できますか。

 請求できます。ただ、65歳以上の人については、全年齢の平均ではなく65歳以上の平均賃金を使い、さらにその7割〜8割程度に下げて計算する例が多いとされています(講演録2007 114頁・115頁。逸失利益についての検討)。休業損害でも、高齢の人については、年齢別の平均賃金をさらに割合で下げて使う例が多く見られます(赤い本 89頁・90頁)。一方で、高齢だからと一律に低く評価せず、同居の家族の有無、家事の分担、家事の中身で判断すべきだという考え方も示されています(講演録2007 115頁・116頁)。令和7年の女性・学歴計の平均の年収は、65〜69歳で333万2,400円、70歳以上で305万6,600円です(e-Stat の同じ表から計算)。

一人暮らしでも請求できますか。

 家事が金銭に換算できる働きと評価されるのは、他人のためにする家事だからで、自分の身の回りのことだけをしている場合は、原則として家事従事者としての休業損害は認められにくいと考えられています(講演録2007 113頁、赤い本 89頁)。ただし、一人暮らしだからといって直ちに否定されるとは限らないという見方も示されています(講演録2007 113頁・114頁。逸失利益についての検討)。仕事をしている人は、仕事の収入の減少分を請求できます。

家事代行や家政婦を頼んだ費用も請求できますか。

 家事ができなかった間に家政婦や家事代行を頼んだ費用が、実際に払った費用の損害として認められることがあります(赤い本 88頁、講演録2025 92頁)。ただし、家事ができなかった分を平均賃金をもとに休業損害として受け取るときは、同じ家事の分を二重には受け取れないため、両方の間で調整されます。また、払った額の全部が認められるとは限らず、けがの様子から必要で、頼んだ家事の内容や時間、単価も相当といえる範囲に限られます(講演録2025 92頁・93頁)。収入が平均賃金と同じくらいかそれ以上で、休業損害が認められない人でも、実際に払った費用は認められる余地があるとされています(講演録2025 93頁)。代わりを頼む必要があったことを説明できるよう、頼んだ理由と期間、領収書を残してください。

インターネットの計算ツールで出た額と、保険会社の提示が違います。

 計算ツールで額が違うときは、次の3つを見比べてください。

  1. 1日あたりの額:自賠責保険の6,100円か、賃金センサスの額か。賃金センサスなら、どの年の値か。
  2. 日数:通院した日だけか、期間を区切って割合を掛けているか。
  3. 兼業の場合の基礎:パートの給与か、平均賃金か(高いほうを使います)。

 自分で見当をつけるときは、次の表を使ってください。割合は、家事の記録をもとに考えます。

期間日数家事ができなかった割合日数 × 割合
① 入院中・家事がまったくできない期間(  )日100%(  )日分
② 家事の多くができない期間(  )日(  )%(  )日分
③ 一部の家事に支障が残る期間(  )日(  )%(  )日分
合計(①〜③の「日数 × 割合」を足す)症状固定まで(  )日(  )日分
休業損害の見当1日あたりの額(令和7年の値なら1万1,974円)× 合計の日分

 出てくるのは見当で、実際の額は、けがの程度や記録の中身をふまえた話し合いや裁判で決まります。

こんなときはご相談ください

○の札を持つ弁護士のイラスト
弁護士
主婦の休業損害は、1日あたりの額と日数の数え方で、額が大きく変わります。保険会社の提示に疑問があるときは、お気軽にご相談ください。

ひとつでも当てはまったら

  • 保険会社から、休業損害は1日6,100円、通院した日の分だけと言われた
  • 兼業なのに、パートの給与の分しか認めないと言われた
  • 主夫・高齢・二世帯暮らしなどで、家事従事者として認められるか分からない
  • 治療が長引き、休業損害を打ち切ると言われた(治療費打ち切りへの対処方法)

参考文献

  • 自動車損害賠償保障法施行令 2条1項3号イ、3条の2
  • 「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号。令和2年4月1日以降の事故に適用するもの)
  • 最高裁判所昭和49年7月19日第二小法廷判決(昭和44年(オ)第594号)民集28巻5号872頁(裁判所ウェブサイトの裁判例検索で全文を確認)
  • 最高裁判所昭和50年7月8日第三小法廷判決(昭和48年(オ)第739号)集民115号257頁(同)
  • 公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(赤い本)2020年版 上巻 73頁、88頁〜91頁、192頁、425頁、436頁
  • 齊藤顕「逸失利益の算定における賃金センサス」同『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』2007年版 下巻(講演録編)97頁〜(本文で引いたのは112頁〜116頁)
  • 髙木健司「症状固定について」同『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』2013年版 下巻(講演録編)7頁〜(本文で引いたのは9頁・10頁)
  • 大野眞穂子「兼業家事従事者の休業損害について」同『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』2025年版 下巻(講演録編)83頁〜(本文で引いたのは84頁、86頁、89頁〜93頁)
  • 栗宇一樹・古笛恵子編『交通事故におけるむち打ち損傷問題〔第3版〕』(保険毎日新聞社)114頁〜118頁
  • 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」令和5年・令和6年・令和7年 一般労働者 産業大分類 第1表(政府統計の総合窓口 e-Stat。令和7年分は令和8年3月24日公表)
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この記事を書いた弁護士
鈴木 晶神奈川県弁護士会所属・横浜クレヨン法律事務所

 交通事故の被害に遭われた方の、示談交渉から紛争処理センター、訴訟までを担当しています。

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