この記事のポイント
- 自賠責保険の等級は、後遺障害診断書や画像などの書面をもとに認定され、審査は書面が中心です。
- 痛みやしびれが局部の神経症状として残ったときは、実務では、障害が医学的に証明できるか(12級)、説明がつくか(14級)で区別されます。むち打ち損傷では、自覚症状が画像や神経学的検査の所見と食い違わないことが重要とされます。
- 可動域は健側も同じ方法で測り、制限の原因もあわせて書いていただくと、判断する側に伝わります。
交通事故でけがをされた患者さんの治療が終わりに近づくと、後遺障害診断書の作成を頼まれることがあります。
自賠責保険の後遺障害の等級は、後遺障害診断書、医療機関への照会の結果、画像などの書面をもとに認定され(赤い本 2013年版 下巻 31頁・32頁)、審査は書面が中心です(交通事故におけるむち打ち損傷問題 第3版 194頁)。同じ症状でも、診断書にどの所見がどう書かれているかで、判断が分かれることがあります。


等級の判断では、何が見られる?
自賠責保険の等級は、原則として労災保険の障害等級認定基準に準じて認定されます(自賠責保険の支払基準。赤い本 2020年版 上巻 437頁)。むち打ち損傷の後遺症の認定では、次の4点が重要とされています(むち打ち損傷ハンドブック 第4版 171頁)。
むち打ち損傷の認定で重要とされる4つの点
- 事故の衝撃の大きさから見て、その症状が生じてもおかしくないこと
- 事故の直後から病院に通い続けていること
- 事故の直後から症状固定の日まで、同じ症状を訴え続けていること
- 後遺障害診断書に書かれた自覚症状が、画像や神経学的検査の所見と食い違わないこと
2と3は経過の診断書で、4は後遺障害診断書で示されるものです(同書 171頁)。
12級と14級は、何で分かれる?
痛みやしびれが局部の神経症状として残ったときの等級は、12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」と14級9号「局部に神経症状を残すもの」に分かれます(自動車損害賠償保障法施行令 別表第二)。むち打ち損傷の痛みやしびれは、この局部の神経症状として扱われます(交通事故におけるむち打ち損傷問題 第3版 191頁)。
- 裁判では、画像の神経の圧迫と、その神経の支配領域の所見がそろうと12級とされやすい
- 所見の出ている領域が、圧迫された神経の支配領域と合わないときは、14級にとどまりやすい
CRPS(RSD)の痛みのように、自賠責保険の基準を満たせば、より上の7級や9級とされるものもあります(赤い本 2013年版 下巻 24頁)。
局部の神経症状について、実務では、障害の存在が医学的に証明できるものが12級、証明まではできなくても医学的に説明がつくものが14級と区別されています(交通事故におけるむち打ち損傷問題 第3版 192頁・196頁)。
証明の根拠となる所見には、画像所見だけでなく神経学的検査の所見も含まれ、訴えている症状を支える検査所見がどれだけそろっているかが問題になるとされています(同書 197頁)。
裁判では、画像で神経の圧迫が認められ、その神経が支配する領域に感覚障害などの所見があると12級とされやすく、所見の出ている領域が圧迫された神経の支配領域と合わないときは14級にとどまりやすいと説明されています(同書 200頁)。
診断書の記載が判断を左右しやすいのは、どの等級?
次の等級は、診断書の書き方が判断に影響しやすいものです。等級の文言は自動車損害賠償保障法施行令の別表第二によります。
目安は、神経症状は上に述べた実務の区別、関節と脊柱は労災保険の障害等級認定基準(平成16年6月4日付け基発第0604003号の別紙と、別添の「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」。以下「測定要領」)によります。
| 等級 | 後遺障害の内容 | 判断の目安 | 診断書で見られる記載 |
|---|---|---|---|
| 14級9号 | 局部に神経症状を残すもの | 症状に医学的な説明がつく | 自覚症状と、事故からの経過 |
| 12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | 症状が画像や神経学的検査で証明できる | 画像所見と神経学的所見の一致 |
| 12級6号・7号 | 一上肢(一下肢)の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの | 可動域が健側の4分の3以下 | 健側と患側の角度、制限の原因 |
| 10級10号・11号 | 一上肢(一下肢)の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの | 可動域が健側の2分の1以下。人工関節・人工骨頭に置き換えた関節も当たる(可動域が2分の1以下なら8級) | 健側と患側の角度、制限の原因 |
| 8級2号 | 脊柱に運動障害を残すもの | 圧迫骨折など・固定術・項背腰部の軟部組織の明らかな器質的変化により、頚部か胸腰部の可動域が参考可動域角度の2分の1以下。頭蓋・上位頚椎間の著しい異常可動性も当たる | 脊柱の運動の角度と、原因となる骨折などの画像 |
等級によって、賠償はどれくらい違う?
| 等級 | 後遺障害の慰謝料(裁判の基準) | 労働能力喪失率 |
|---|---|---|
| 14級 | 110万円 | 5% |
| 12級 | 290万円 | 14% |
| 10級 | 550万円 | 27% |
| 8級 | 830万円 | 45% |
慰謝料は裁判で使われる基準(赤い本 2020年版 上巻 196頁)、喪失率は自賠責保険の支払基準の表(同 441頁)によります。
このほか、将来の収入の減少分(逸失利益)を、事故前の収入、喪失率、症状固定から原則67歳までの期間をもとに計算します。ただし、むち打ちの12級・14級では、この期間を12級は10年程度、14級は5年程度に区切る例が多く、具体的な症状によって個別に判断すべきものとされています(赤い本 2020年版 上巻 99頁)。
計算例:手首の角度が10度違うと、どうなる?
けがをしていない左の手首が、曲げる動きと反らす動きの合計で150度動く方の例です。右の手首が110度なら、150度の4分の3(112.5度)以下なので12級6号に当たりますが、120度なら当たりません。
主要運動の角度が基準をわずかに(原則5度)上回るだけのときは、参考運動(手首では親指側・小指側に倒す動き)の制限もあわせて判断されます(測定要領 第1の2(3))。健側の値が10度違えば、基準になる角度も7.5度動きます。
12級6号と認められた場合の目安(計算例)
- 慰謝料:290万円
- 逸失利益:921万6,270円
- 合計:1,211万6,270円
50歳で症状固定、事故前の年収が500万円の男性が12級6号と認められると、裁判の基準による目安は、慰謝料290万円と逸失利益921万6,270円(500万円×14%×67歳までの17年に対応する年3%のライプニッツ係数13.1661)で、合わせて1,211万6,270円です(赤い本 2020年版 上巻 99頁・100頁・196頁・429頁)。

後遺障害診断書で、お願いしたいことは?
症状固定日
症状固定は、労災保険の認定基準の考え方では、医学上一般に認められた治療をしても効果が期待できなくなり、残った症状が自然の経過でたどり着く最終の状態に達したときをいいます(赤い本 2013年版 下巻 8頁・9頁)。
症状固定日は、原則として治療費や休業損害を請求できる期間の区切りとなり(同 9頁)、逸失利益を計算する期間の始まりです(赤い本 2020年版 上巻 99頁)。
裁判所は、症状固定についての医師の判断を基本的に尊重しつつ、傷病と症状の内容、症状の推移、治療の内容、通院の経過、検査の結果、同じ傷病で通常かかる期間、事故の状況から、その判断が合理的かどうかを検討する傾向にあると説明されています(赤い本 2013年版 下巻 10頁・11頁)。

適切な時期に後遺障害の認定を受けないと、残った症状が事故によるものか加齢による変化かを区別しにくくなるという指摘もあります(むち打ち損傷ハンドブック 第4版 168頁)。
自覚症状

自覚症状の欄で分かるようにしたい点
次の点が分かるように書いていただけると、ほかの所見と照らし合わせやすくなります。
- 部位と左右:「右手の親指から人差し指にかけて」のように、範囲が分かる書き方
- 症状の性質:痛み、しびれ、力の入りにくさなど
- 出る場面と頻度:いつもあるのか、首を後ろに反らしたときなど決まった動作で出るのか
- 事故からの経過:カルテに残っている訴えと食い違わないこと
神経学的検査の結果
後遺障害診断書の用紙には、知覚・反射・筋力・筋萎縮などの神経学的所見や、X線・CT・脳波などの検査について、具体的に書くよう注意書きがあります(むち打ち損傷ハンドブック 第4版 176頁に用紙の見本)。
痛みが残る場合も、この欄に検査結果や他覚所見を書き、残った症状を医学的に説明することが大切とされています(同書 173頁)。
検査ごとに書いていただきたいこと
- 反射:腱反射ごとに、左右それぞれの消失・低下・正常・亢進の別(標準整形外科学 第14版 126頁・127頁)。年齢とともに、とくにアキレス腱反射は弱くなるため(同書 126頁)、左右差の有無も書いていただけると助かります。
- 感覚:左右の同じ神経支配領域を比べた結果と、鈍麻・消失・過敏の別(同書 123頁・124頁)。
- 筋力:徒手筋力テストの6段階の評価(同書 121頁、標準リハビリテーション医学 第4版 96頁)と握力。筋ごとの結果から、神経が障害された高さを推定できます(標準整形外科学 第14版 121頁)。
- 筋萎縮:腕や脚の周囲径を、左右同じ位置で測った値(同書 120頁、標準リハビリテーション医学 第4版 96頁)。
- 誘発テスト:スパーリングテスト・ジャクソンテスト(標準整形外科学 第14版 510頁・511頁)や、下肢伸展挙上テスト(痛みが出た角度も記録します。同書 556頁)の結果。
画像所見

画像に写った軽い変化が、症状の原因とは限りません
椎間板の膨隆などは症状のない人にもみられ(脊椎MRI読影の一手 3頁)、画像に写った軽い変化が、そのまま症状の原因になっているとは限りません(同書 4頁)。一方、神経根の圧迫による運動や感覚の障害は、圧迫された側と同じ側に出ます(同書 5頁)。
画像の所見が今の症状を説明するものかどうか、先生のお考えを添えていただけると、等級の判断で重く見られる「一致」が伝わります。

頭部外傷のあとに高次脳機能障害が問題になるときは、受傷直後の画像と、その後の経時的な画像の両方が重要とされています(Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務 48頁)。自賠責保険の認定では、「頭部外傷後の意識障害についての所見」や「神経系統の障害に関する医学的意見」の書式の作成を頼まれることもあります(同書 44頁、46頁・47頁)。
関節の可動域
可動域は、日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会が定めた「関節可動域表示ならびに測定法」によって測ります(標準整形外科学 第14版 936頁。今の版は日本足の外科学会も加わった3学会の制定です。標準リハビリテーション医学 第4版 396頁)。
可動域を書くときの決まり
- 原則として他動運動で測った値を書き、自動運動で測ったときはその旨を明記する
- 角度計で通常5度刻みに測る
- 痛みなどが値に影響するときは「痛み」と書き添える
いずれも測定法の決まりです(標準整形外科学 第14版 937頁、標準リハビリテーション医学 第4版 397頁)。労災保険の測定要領も、この測定法に準拠しています(測定要領 第1)。
後遺障害診断書の関節機能障害の欄は、健側と患側の両方を、他動と自動の両方で書く形になっています(むち打ち損傷ハンドブック 第4版 177頁に用紙の見本)。
等級は原則として健側と比べて判断されるため(測定要領 第1の1(1))、健側も同じ方法で測っていただく必要があります。曲げと伸ばしのように同じ面の運動は、原則として両方の角度を合計して比べます(肩の屈曲と伸展は別々にみます。同 第1の1(2))。
制限の原因も大切です。測定要領は、測る前に、制限が骨や関節そのものの変化などの器質的変化によるものか、麻痺や痛みなどの機能的変化によるものかを明らかにするよう求めています(測定要領 第2の1(1))。
- 例:骨折の変形癒合
- 制限の原因となる所見を、画像とあわせて書いていただけると助かる
- 痛くて動かせないだけなら、関節の機能障害ではなく神経症状(12級13号か14級9号)として評価されるにとどまる
- 末梢神経の損傷による弛緩性の麻痺で、他動では動くのに自動では動かない場合などは、自動運動の値も参考にされる
制限の原因となる器質的な変化がなく、痛くて動かせないだけの制限は、関節の機能障害ではなく、神経症状として12級13号か14級9号で評価されるにとどまります(交通事故におけるむち打ち損傷問題 第3版 33頁)。骨折の変形癒合など、制限の原因となる所見を、画像とあわせて書いていただけると助かります。
末梢神経の損傷による弛緩性の麻痺で、他動では動くのに自動では動かない場合などは、自動運動の値も参考にされます(測定要領 第2の1(1))。その事情も書き添えていただけると助かります。
そのほかの欄
- 傷病名:症状固定の時点で残っている症状に関するもの(むち打ち損傷ハンドブック 第4版 172頁)
- 既存障害:今回の事故より前の障害の有無(同書 172頁)
- 増悪・緩解の見通し:病態に基づく見通し(同書 173頁)
- 等級:用紙の注意書きのとおり、書かない(同書 176頁)
弁護士からの照会・意見書は、何のため?
- 後遺障害診断書
- 医療機関への照会の結果
- 画像など
- 自賠責保険の認定に縛られない
- 等級が上がることも、下がることもある
自賠責保険の認定は、制度上、後遺障害診断書や医療機関への照会の結果、画像など、認定を求めた時点の資料で行われますが、裁判では、医療機関にあるカルテなどの記録全体をもとに主張と立証ができます(赤い本 2013年版 下巻 31頁・32頁)。
裁判所は自賠責保険の認定に縛られず、自賠責で14級や非該当とされたものが12級と認められることも、逆に等級が下がることもあります(交通事故におけるむち打ち損傷問題 第3版 193頁・194頁)。弁護士が先生に照会するのは、この判断に必要な医学的な事実を確かめるためです。
照会や意見書でお尋ねすることがある点
照会や意見書のご依頼では、次のような点をお尋ねすることがあります。
- 初診時の所見と、症状が出た時期、その後の経過(カルテの記載に沿って)
- 画像の所見と、症状・神経学的所見との対応(高さと左右が合っているか)
- 加齢による変化や事故前からの病気との区別(事故の前に同じ部位で通院していたかなど、分かる範囲で)
- 症状固定と判断された時期と、その理由
- 可動域の制限や筋力の低下の原因

高次脳機能障害では、診察室の限られた時間では生活の様子まで分かりにくいため、ご家族が診察に同席して日常の様子を伝えることが勧められています(Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務 49頁)。部位ごとの等級と必要な検査は、交通事故の後遺障害(けがの部位から探す)にまとめています。
なお、当事務所は、患者さんをご紹介いただいても、謝礼などの対価はお支払いしません。弁護士職務基本規程13条で禁じられているためです。
こんなときはご相談ください

参考文献
- 自動車損害賠償保障法施行令 別表第二
- 自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)第3
- 厚生労働省「せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について」(平成16年6月4日付け基発第0604003号)別紙、別添「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」
- 標準整形外科学 第14版(医学書院)120頁・121頁、123頁・124頁、126頁・127頁、510頁・511頁、556頁、936頁・937頁
- 標準リハビリテーション医学 第4版(医学書院)96頁、396頁・397頁
- 遠藤健司・西村浩輔 編著『むち打ち損傷ハンドブック 第4版』(丸善出版)168頁、171頁〜173頁、176頁・177頁
- 栗宇一樹・古笛恵子 編『交通事故におけるむち打ち損傷問題 第3版』(保険毎日新聞社)33頁、191頁〜194頁、196頁・197頁、200頁
- 脊椎MRI読影の一手 3頁〜5頁
- 椎体骨折診療ガイド 149頁
- 松浦裕介・村田佳宏 編著『Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務』(ぎょうせい)44頁、46頁〜49頁
- 公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(赤い本)2020年版 上巻 99頁・100頁、196頁、429頁、437頁、441頁
- 同 2013年版 下巻(講演録編)高木健司「症状固定について」8頁〜11頁、有冨正剛「CRPS(RSD)の後遺症による損害の額の算定について」24頁、31頁・32頁
- 弁護士職務基本規程 13条



