この記事のポイント
- 肩・腕・手のけがは、骨がついたあとも動きの制限や痛みが残ると、その程度に応じて後遺障害の等級の対象になります。
- 等級の多くは、関節が動く角度をけがをしていない側(健側)と比べて決めます。わずかな角度の違いで等級が変わることがあります。
- 腱板損傷や舟状骨骨折は、あとから見つかると事故との関係を疑われやすいけがです。事故の直後から痛みを医師に伝え、MRIなどの検査を主治医に相談しましょう。
肩・腕・手のけがは、転んで手や肩を打ちつけたときに起こりやすく、交通事故でも歩行中や自転車・バイクでの転倒などでみられます。


この頁では、肩・腕・手に多いけがと、認められる等級、等級を認めてもらうために必要な検査と資料を、交通事故を扱う弁護士がまとめました。等級の多くは関節が動く角度で決まるため、わずかな角度の違いで等級が変わることがあります。
肩・腕・手には、どんなけがが多い?
鎖骨骨折
鎖骨は、胴体と肩をつなぐ骨です。骨折の多くは肩から転んだときに起こり、真ん中あたりで折れることが多いとされています(救急/プライマリ・ケアの骨折診療スタンダード 原著第4版 229頁)。
骨が曲がったり短くなったりしたままつくことがあり、肩側の端の骨折が関節の面に及ぶと、あとで関節の変形(関節症)が進み、機能の障害が残ることもあります(骨折の治療指針とリハビリテーション 68頁)。
上腕骨近位端骨折(肩の付け根の骨折)
二の腕の骨(上腕骨)の、肩に近い端の骨折です。転んで肘や手をついたときや、交通事故などで肩の横から強い力が加わったときに起こります。
治療のあとによく残るのは、肩の関節が固くなって腕が上がりにくくなる「拘縮」です(骨折の治療指針とリハビリテーション 76頁)。大結節(腱板が付く部分)の骨折では、腱板の損傷を伴うことがあります(同 77頁)。
骨の頭が大きく壊れて人工骨頭に入れ替えた場合は(同 80頁)、動く範囲により10級10号か8級6号に当たります(労災保険の障害等級認定基準。以下「労災の認定基準」)。
腱板損傷
腱板は、肩甲骨から上腕骨の上の端に付く4つの筋肉の腱の集まりで、肩の関節を安定させ、腕を上げたり回したりする働きをしています(プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 第4版 274頁・316頁)。

「事故の前からあった断裂だ」と言われることも
ただし、腱板の断裂は年齢とともに増え、肩に痛みのない人にもみられます(標準整形外科学 第14版 443頁、軟部組織損傷・障害の病態とリハビリテーション 233頁)。加齢による変性で起こる断裂もあるため(同 234頁)、保険会社から「事故の前からあった断裂だ」と言われることがあります。
事故の直後から肩の痛みや腕の上がりにくさを医師に伝え、早めにMRIを撮ってもらうことが大切です。
肘の骨折
肘のまわりの骨折には、上腕骨の肘側の端の骨折(上腕骨遠位端骨折)、肘の後ろの出っ張りの骨折(肘頭骨折)、橈骨の肘側の端の骨折(橈骨頭骨折)などがあります(骨折の治療指針とリハビリテーション 103頁・121頁・130頁)。
これらの骨折のあとでよくみられるのが、肘の曲げ伸ばしの制限です(同 111頁)。肘の内側を通る尺骨神経が傷つくこともあります(同 112頁)。
橈骨遠位端骨折(手首の骨折)

骨がずれたままついたり、関節の面に段差が残ったりすると、手首の動きの制限や痛みが残ることがあります(同 151頁)。橈骨が短くなってつくと、手首の小指側の痛みの原因になることもあります(同 153頁)。
手のひらを上下に返す動き(回内・回外)に障害が残ることも多くあります(労災の認定基準)。
TFCC損傷
TFCC(三角線維軟骨複合体)は、手首の小指側で尺骨と手根骨の間にある軟骨と靱帯の集まりで、手にかかる力を受け止めるクッションの役目をしています。
転んで手をついたときなどに傷つき、手首の小指側の痛みや、ひねったときの痛みが出ます(標準整形外科学 第14版 490頁、上肢MRI読影の一手 161頁)。診断には、MRIや手首の関節鏡が役立ちます(標準整形外科学 第14版 483頁)。
舟状骨骨折
手首の親指側にある小さな骨(舟状骨)の骨折で、手首を反らせて手をついて転んだときなどに起こります(骨折の治療指針とリハビリテーション 163頁)。
手根骨の骨折の中では多いものですが、けがの直後のレントゲンでは異常が見つからないことが多く(救急/プライマリ・ケアの骨折診療スタンダード 原著第4版 117頁・118頁)、捻挫として放っておかれると、骨がつかない「偽関節」になりやすい骨折です(ひとりで学べる上肢X線写真の撮りかたと見かた 188頁)。


指の骨折(中手骨・指節骨の骨折)
手のひらの骨(中手骨)や指の骨(指節骨)の骨折は、手に直接強い力が加わって起こることが多い骨折です(骨折の治療指針とリハビリテーション 178頁・192頁)。
骨がねじれたままつくと、指を曲げたときに隣の指と重なります(同 178頁)。指の関節は長く固定すると固くなりやすく(同 193頁)、曲がりきらない、伸びきらないといった制限が残ることがあります。
何級になる? 認められる後遺障害の等級

肩・肘・手首と腕の骨の等級
| 等級 | 後遺障害の内容 | 労災の認定基準による目安 |
|---|---|---|
| 14級9号 | 局部に神経症状を残すもの | けがをした部位に、ほとんどいつも痛みが残る |
| 12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | ときに強い痛みで、仕事にある程度差し支える |
| 12級8号 | 長管骨に変形を残すもの | 上腕骨や、橈骨・尺骨の両方が15度以上曲がってついたものなど |
| 12級6号 | 一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの | 動く範囲が、けがをしていない側(健側)の4分の3以下 |
| 12級5号 | 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの | 裸で変形がはっきり分かる(レントゲンで初めて分かる程度は当たらない) |
| 10級10号 | 一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの | 動く範囲が健側の2分の1以下、または人工関節・人工骨頭に入れ替えた |
| 8級8号 | 一上肢に偽関節を残すもの | 上腕骨、または橈骨・尺骨の両方の骨幹部などがつかないものなど |
| 8級6号 | 一上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの | 関節が固まった(強直)、完全な麻痺かそれに近い状態、または人工関節・人工骨頭で動く範囲が健側の2分の1以下 |
| 7級9号 | 一上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの | 上腕骨、または橈骨・尺骨の両方の偽関節で、いつも硬性補装具が必要 |
| 6級6号 | 一上肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの | 3つの関節のうち2つが8級6号の状態 |
腕を失ったときは、手関節以上で5級4号、ひじ関節以上で4級4号です。
手指の等級
| 等級 | 後遺障害の内容 |
|---|---|
| 14級7号 | 一手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなつたもの |
| 14級6号 | 一手のおや指以外の手指の指骨の一部を失つたもの |
| 13級7号 | 一手のおや指の指骨の一部を失つたもの |
| 13級6号 | 一手のこ指の用を廃したもの |
| 12級10号 | 一手のひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの |
| 12級9号 | 一手のこ指を失つたもの |
| 11級8号 | 一手のひとさし指、なか指又はくすり指を失つたもの |
| 10級7号 | 一手のおや指又はおや指以外の二の手指の用を廃したもの |
| 9級12号 | 一手のおや指又はおや指以外の二の手指を失つたもの |
表の「失つた」「用を廃した」とは
「失つた」とは、親指は指節間関節、ほかの指は第2関節(近位指節間関節)か、それより付け根側で失ったものです。「用を廃した」とは、指先の骨(末節骨)の半分以上を失ったか、付け根の関節(中手指節関節)か第2関節(親指は指節間関節)の動く範囲が健側の2分の1以下になったものです(別表第二の備考、労災の認定基準)。
親指を開く動き(橈側外転・掌側外転)のどちらかが健側の2分の1以下になったものや、指の末節の腹と側面の感覚が完全になくなったものも、これに準じて扱われます(労災の認定基準)。
可動域はどう測る? けがをしていない側と比べる
関節の機能障害の等級は、けがをした側の関節が動く角度を角度計で測り、けがをしていない側(健側)と比べて決めます。健側もけがをしているときは、標準的な角度(参考可動域角度)と比べます(労災の認定基準 別添)。
比べるのは関節ごとの「主要運動」で、肩は腕を前に上げる動き(屈曲)と横に上げ下ろしする動き(外転・内転)、肘は曲げ伸ばし、手首は手のひら側・手の甲側に曲げる動き(屈曲・伸展)です。肘や手首は、曲げと伸ばしの角度を足して比べます。角度は原則として、医師が動かしたとき(他動運動)の角度を5度きざみで測ります(同、標準整形外科学 第14版 937頁)。
前腕を返す動き(回内・回外)は、健側の4分の1以下なら10級、2分の1以下なら12級に準じます(労災の認定基準)。
例:けがをしていない左の手首が合計150度なら
たとえば、けがをしていない左の手首の曲げ伸ばしが合計150度なら、骨折した右の手首の目安は次のとおりです。
- 右が112.5度(150度の4分の3)以下なら、12級6号
- 右が75度(150度の2分の1)以下なら、10級10号
- 右が15度(150度の10%を5度単位で切り上げた角度)以下なら、関節が固まったもの(強直)として8級6号
5度の違いで等級が変わりうる
右が115度のように基準をわずかに(原則5度以内。手首で10級10号をみるときは10度以内)上回るときは、手首を左右に倒す動き(橈屈・尺屈)の制限もあわせてみます(労災の認定基準 別添)。
5度の違いで等級が変わりうるので、後遺障害診断書には左右両方の角度を正確に書いてもらいましょう。
骨の変形と偽関節は何級?
折れた骨がつかず、折れたところが動いてしまう状態を偽関節といいます。偽関節の等級(8級8号・7級9号)の対象は上腕骨や、橈骨・尺骨の骨幹部などで(労災の認定基準)、舟状骨のような手首の小さな骨の偽関節は、手首の動きの制限や痛みの等級で評価を求めることになります。
骨が曲がってつくと「長管骨の変形」(12級8号)に当たることがありますが、よい向きで短くならずについたときは、つなぎ目が太くなっていても当たりません(同)。
鎖骨の変形(12級5号)と肩の動きの制限(12級6号)が両方残ったときは、併合して11級として扱われます(自動車損害賠償保障法施行令2条1項3号ニ、労災の認定基準)。
痛みやしびれが残ったときは?(神経症状)
動きの制限が基準に届かなくても、骨折した部分などの痛みが残ったときは、12級13号か14級9号が認められることがあります。労災の基準では、ときに強い痛みで仕事にある程度差し支えるものが12級、ほとんどいつも痛みが残るものが14級です(神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準)。
実務では、骨の変形や関節の面の段差など、痛みの原因を画像で示せるかどうかが大きく影響します(首・背中・腰の後遺障害も参照)。
腕の骨(上腕骨・橈骨・尺骨)の変形や偽関節と、同じ場所の痛みは、重いほうの等級で認定されます(労災の認定基準)。
CRPS(RSD)が問題になるとき
骨折のあと、強い痛みとともに関節の固さ、骨の萎縮、皮膚の変化(皮膚の温度の変化や萎縮)が出てきたときは、CRPS(RSD)が問題になります。
労災の基準では、この3つがいずれも健側と比べて明らかな場合に限って、RSDとして等級を認定します(神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準)。CRPS(RSD、カウザルギー)についてと脊髄・神経の後遺障害をご覧ください。
何級で、いくら? 等級ごとの賠償の目安
| 等級 | 後遺障害の慰謝料(裁判の基準) | 労働能力喪失率 |
|---|---|---|
| 14級 | 110万円 | 5% |
| 13級 | 180万円 | 9% |
| 12級 | 290万円 | 14% |
| 11級 | 420万円 | 20% |
| 10級 | 550万円 | 27% |
| 9級 | 690万円 | 35% |
| 8級 | 830万円 | 45% |
| 7級 | 1,000万円 | 56% |
| 6級 | 1,180万円 | 67% |

年収500万円の方なら、1年あたりの減少分は12級(14%)で70万円、10級(27%)で135万円です。
- 慰謝料(裁判の基準) 290万円
- 逸失利益(1年あたり) 70万円
- 慰謝料(裁判の基準) 550万円
- 逸失利益(1年あたり) 135万円
手首の角度の違いで12級か10級かが分かれると、慰謝料だけでも260万円違います。計算の方法は交通事故の逸失利益とは?職業別の計算方法で説明しています。
等級を認めてもらうには? 必要な検査と資料

そろえておきたい検査と資料
- 事故の直後からの受診の記録:肩や手首の痛みは最初の受診から医師に伝え、カルテに残してもらいます。腱板損傷や舟状骨骨折は、あとから見つかると事故との関係を疑われやすいけがです。
- MRI・CT:レントゲンで異常がなくても痛みが続くときは、MRIやCTについて主治医に相談してください。腱板の断裂、TFCC損傷、ずれの少ない舟状骨骨折は、MRIやCTで分かることがあります(標準整形外科学 第14版 443頁・483頁)。
- 左右両方の可動域:後遺障害診断書には、けがをした側と健側の両方の、主要運動と参考運動の角度を書いてもらいます。痛みや麻痺で自分では動かせないときは、その事情も書いてもらいます。
- 神経の検査:しびれや感覚の低下があるときは、神経伝導検査などの結果を残してもらいます。指の感覚が完全になくなったことは、感覚神経の伝導検査で確かめる取扱いです(労災の認定基準)。
- 骨を留めた金属:釘などの金属が関節の動きを妨げているときは、抜く手術を待って等級を認定する取扱いです(同)。症状固定の時期は主治医とよく相談してください(症状固定とは何か)。
- 変形の写真:鎖骨の変形は、裸で見て分かるかどうかが基準なので、写真を残しておくと役立ちます。
こんなときはご相談ください

ひとつでも当てはまったら
- リハビリで動きがよくなってきているのに、治療費の打ち切りを告げられた(治療費打ち切りへの対処)
- 後遺障害診断書に書かれた角度が、実際の動きと合っていない気がする
- 腱板損傷やTFCC損傷を「事故の前からのもの」と言われた
- 手首の痛みが続くのに、レントゲンでは異常がないと言われている
- 等級が認められなかった、または思っていたより低かった(異議申立て)
- 手術の傷あとが残った(傷あとの後遺障害)
参考文献
- 自動車損害賠償保障法施行令 2条、別表第二
- 自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)第3
- せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準(平成16年6月4日基発第0604003号)と別添「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」
- 神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準(平成15年8月8日基発第0808002号)
- 標準整形外科学 第14版(医学書院)443頁、483頁、490頁、937頁
- 骨折の治療指針とリハビリテーション 68頁、76頁・77頁、80頁、103頁、111頁・112頁、121頁、130頁、151頁、153頁、163頁、167頁、178頁、192頁・193頁
- 救急/プライマリ・ケアの骨折診療スタンダード 原著第4版 117頁・118頁、229頁
- ひとりで学べる上肢X線写真の撮りかたと見かた 185頁、188頁
- 上肢MRI読影の一手 9頁・11頁・13頁、147頁、161頁
- 軟部組織損傷・障害の病態とリハビリテーション 233頁・234頁
- プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 第4版 274頁、316頁
- 公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(赤い本)2020年版 上巻 196頁



