この記事のポイント
- 頭を強く打ったあと、命が助かり手足が動いても、物忘れ・怒りっぽさ・段取りの悪さなどが残ることがあります。これが高次脳機能障害です。
- 高次脳機能障害は、自賠責保険で1級から9級までの6段階で評価されます。認められる段階が一つ違うだけで、賠償額は大きく変わります。
- 審査では画像・意識障害・事故のあとの変化の3点が見られます。ご本人は変化に気づきにくいため、ふだんの様子を知るご家族の話が大切です。


交通事故で頭を強く打ったり激しく揺さぶられたりすると、脳挫傷、頭の中の出血、びまん性軸索損傷などのけがを負うことがあります。命が助かり、手足も動くようになったのに、「物忘れがひどくなった」「怒りっぽくなった」「段取りよく家事や仕事を進められない」といった変化が残ることがあります。これが高次脳機能障害です。
この頁では、頭部・脳のけがのあとに残りやすい後遺障害と、認められる等級、等級を認めてもらうために必要な画像・検査・資料を、交通事故を扱う弁護士がまとめました。ご本人は変化に気づきにくいため、ふだんの様子を知るご家族の話が大切になる障害です。
頭部・脳には、どんなけがが多い?

脳挫傷
頭を打った衝撃で脳そのものが傷つき、出血やむくみが生じるけがです。打った場所の真下だけでなく反対側にも生じることがあり、前頭葉や側頭葉の先端に起こりやすいとされています(標準脳神経外科学 第15版 269頁)。時間がたつと、傷ついた部分は縮んで痕になります(頭部CT・MRIの撮像・読影マスター 93頁)。
急性硬膜下血腫など頭の中の出血
脳を包む膜(硬膜)の内側に血がたまり、脳を圧迫するのが急性硬膜下血腫です。頭が強く回されるような力で脳の表面の静脈が切れて起こることがあり、脳の広い範囲の損傷を伴うことが少なくありません(標準脳神経外科学 第15版 276頁)。受傷直後から意識障害が重い場合は、命が助かっても重い後遺障害が残ることがあります(同 277頁)。
びまん性軸索損傷
頭が急に揺さぶられたり回されたりしたときに、脳の奥の神経線維(軸索)が広い範囲で傷つくけがです。頭の中に大きな血のかたまりがないのに意識障害が長く続くのは、このけがによると考えられています。受傷直後のCTでは異常がはっきりしないことが多く、MRIのほうが見つけやすいとされています(標準脳神経外科学 第15版 269頁・270頁、頭部CT・MRIの撮像・読影マスター 106頁)。
時間がたつにつれて脳が縮み、脳の中の空間(脳室)が広がってくることがあります(標準脳神経外科学 第15版 270頁・271頁)。
けがのあと、どんな障害が残りやすい?

高次脳機能障害
記憶・注意・判断・感情のコントロールなど、考えたり行動したりするための脳の働きが損なわれた状態です。次のような症状がみられます(標準脳神経外科学 第15版 261頁、標準リハビリテーション医学 第4版 243頁、Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務 37頁)。
- 新しいことを覚えられない
- 注意が続かない
- 段取りを立てて物事を進められない
- 意欲がなくなる
- 怒りっぽくなる
周りから分かりにくく、見落とされることも
手足の動きに大きな障害がなく、身の回りのことは自分でできる人も多いため、周りから分かりにくい障害です(標準リハビリテーション医学 第4版 242頁)。ほかのけがの治療に目が向いたり、ご本人が変化に気づけなかったりして、見落とされることもあります(Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務 38頁)。詳しくは高次脳機能障害の症状や後遺障害等級、認定されるためのポイントをご覧ください。
遷延性意識障害

外傷性てんかん
脳の傷がもとになって、けいれんなどの発作が起こるものです。起こる時期は、次のとおりとされています(標準脳神経外科学 第15版 261頁)。
- 受傷頭のけが(脳の傷)
- 1週間
すぎ受傷から1週間を過ぎて初めて起こるもの(晩期てんかん)が、本来の外傷性てんかん - 6か月
まで半数ほどは、受傷後6か月までに起こる - 2年
まで8割ほどは、2年までに起こる - 何年も
あと事故から何年もたって初めて発作が出ることもあります(Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務 27頁)
脳挫傷で意識障害が長く続いた場合や、頭の中の出血、頭蓋骨の陥没骨折があった場合に起こりやすいとされています(標準脳神経外科学 第15版 261頁)。
嗅覚の障害
においが分からなくなる、または鈍くなる障害で、料理や食事の場面で困ることが多くなります。においを伝える嗅神経は、頭を打ったときに傷つきやすい頭蓋骨の前の方の底(前頭蓋底)を通っているため、脳神経の中でも傷つきやすく、頭蓋骨の骨折がなくても起こります(標準脳神経外科学 第15版 266頁、標準リハビリテーション医学 第4版 242頁・243頁)。
受傷直後に意識障害があると、見落とされやすい
受傷直後に意識障害があるとご本人も気づかず、見落とされやすいため、あとから疑われたときはアリナミンテストで確かめます(標準脳神経外科学 第15版 280頁)。
どんな後遺障害の等級が認められる?
高次脳機能障害は、自動車損害賠償保障法施行令の別表第一(介護を要する後遺障害)と別表第二の「神経系統の機能又は精神」の障害として評価され、自賠責保険では次の6段階で等級を認定しています(Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務 50頁)。
下の表の右の欄は、自賠責の認定で目安とされている考え方(Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務 55頁・56頁)を、分かりやすい言葉に直したものです。
| 等級 | 後遺障害の内容(別表の文言) | 生活・仕事の状態の目安 |
|---|---|---|
| 別表第一 1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの | 身の回りのほとんどすべての動作に介護が欠かせない |
| 別表第一 2級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの | 判断力の低下などのため一人では外出できず、生活の場が家の中に限られる。食事やトイレはできても、家族の声かけや見守りが欠かせない |
| 別表第二 3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの | 近所なら一人で出かけられ、身の回りのことも自分でできるが、記憶・注意・新しいことを覚える力・人付き合いなどの障害が重く、一般の職場で働くことができないか、難しい |
| 別表第二 5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 単純な繰り返しの作業なら働けるが、新しい作業を覚えられない、環境が変わると続けられないなどのため、職場の理解と支えがないと働き続けられない |
| 別表第二 7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 一般の職場で働き続けられるが、段取りが悪い、約束を忘れやすい、ミスが続くなどのため、ほかの人と同じようには働けない |
| 別表第二 9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 一般の職場で働き続けられるが、問題を解決する力などに障害が残り、仕事の能率や続ける力に支障がある |
ほかの後遺障害も一緒に残ったとき(併合)
目・耳・においの障害や傷あとなど、種類の違う後遺障害が一緒に残ったときは、「併合」によって等級が1〜3級繰り上がることがあります。ただし、自賠責保険では、別表第一の1級1号・2級1号のときは繰り上がりません(自動車損害賠償保障法施行令2条1項、Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務 62頁・63頁)。
もっとも、裁判の基準で慰謝料を計算するときは、別表第一の2級にほかの後遺障害が加わった場合も、繰り上げた等級で計算するとされています(民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 2020年版 上巻 196頁)。目・耳・鼻は顔(目・耳・鼻・口・歯)の後遺障害、傷あとは傷あとの後遺障害をご覧ください。
においだけの障害の等級
鼻の欠損を伴わない、においだけの障害は別表第二に項目がなく、備考六により、ほかの等級に相当するものとして扱われます。自賠責保険は、原則として労災保険の等級認定の基準に準じて等級を認定しており(自賠責保険の支払基準 第3)、労災保険の基準では、においがまったく分からない嗅覚脱失は12級、においが鈍くなった嗅覚の減退は14級として扱うこととされています(「障害等級認定基準について」昭和50年9月30日基発第565号)。
ただ、においの障害は、仕事の内容によっては働く力に影響しないことがあるため、裁判で逸失利益を計算するときに、下の「等級ごとの賠償の目安」の表の労働能力喪失率より低く見積もられることがあります(Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務 163頁・164頁・169頁)。
画像で脳の損傷が確かめられないまま、気分の落ち込みや不安などが続く場合は、脳の損傷によらない精神の障害(非器質性精神障害)として、9級・12級・14級で評価されることがあります(Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務 68頁)。詳しくは心の不調(PTSD・うつ状態)の後遺障害をご覧ください。
等級ごとの賠償の目安
| 等級 | 後遺障害の慰謝料(裁判の基準) | 労働能力喪失率 |
|---|---|---|
| 1級 | 2,800万円 | 100% |
| 2級 | 2,370万円 | 100% |
| 3級 | 1,990万円 | 100% |
| 5級 | 1,400万円 | 79% |
| 7級 | 1,000万円 | 56% |
| 9級 | 690万円 | 35% |
| 12級 | 290万円 | 14% |
| 14級 | 110万円 | 5% |

計算の例:等級が一つ違うと、どう変わる?

症状固定の時に40歳で、事故の前の年収が500万円の会社員が、9級10号と認められた場合の例です。働ける期間は原則として67歳までとされているので27年とし(民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 2020年版 上巻 99頁)、将来の分を前もって受け取るために利息分を差し引く係数(ライプニッツ係数)は、年3%で計算した18.3270を使います。令和2年4月1日から令和11年3月31日までに起きた事故では、法定利率が年3%だからです(民法404条、417条の2、722条1項、法務省「令和8年4月1日以降の法定利率について」)。
500万円 × 35% × 18.3270
= 3,207万2,250円
690万円
500万円 × 56% × 18.3270
= 5,131万5,600円
1,000万円
高次脳機能障害の6段階のうち、認められる段階が一つ違うだけで、賠償額は大きく変わります。実際の額は、事故の前の収入の資料、仕事への影響、過失割合、すでに受け取った保険金などで変わります。計算の考え方は交通事故の逸失利益とは?職業別の計算方法で説明しています。
介護が必要なとき
別表第一の1級1号・2級1号は、介護が必要なことを前提にした等級です(Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務 170頁)。
介護にかかわる賠償
- 将来の介護費用:高次脳機能障害が3級以上の事案では、裁判で将来の介護費用が認められることが多く、5級の事案でも、見守りや声かけが必要として認められることが多いとされています。ただし、5級では、個別の事情によって判断が分かれます(Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務 169頁・171頁)。
- 住まいの改修や福祉車両の費用:問題になることもあります(同 182頁〜184頁)。
- ご家族自身の慰謝料:2級以上の重い障害では、認められることが多いとされています(同 158頁・159頁)。

等級を認めてもらうには、どんな画像・検査・資料が要る?
自賠責保険は、次の3点を合わせて判断し、なかでも画像を重く見ています(Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務 39頁・40頁)。
- なかでも重く見られる
画像:受傷直後と、その後の経過
受傷直後の画像に写る脳の小さな出血などは、脳の損傷を示す大切な資料です。また、脳が縮んだり脳室が広がったりする変化は、おおむね3か月ほどで固まるとされているため、その後に撮った画像もそろえます(Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務 41頁・42頁・48頁)。

受傷直後の意識障害の記録
意識障害の重さと長さは、JCS・GCSという物差しで記録されます(Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務 22頁〜24頁)。次の場合は、自賠責で特に慎重に審査する事案として扱われます(同 43頁)。
- 刺激をしないと目を開けない程度(JCS 2桁〜3桁、GCS 12点以下)の意識障害が6時間以上続いた場合
- 軽い意識障害(JCS 1桁、GCS 13〜14点)や記憶の欠落が1週間以上続いた場合
最初に運ばれた病院に「頭部外傷後の意識障害についての所見」を書いてもらい、救急隊の記録(救急活動記録票)があれば添えてもらいます(Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務 47頁、264頁)。
検査と、ご家族・主治医の書面
- 神経心理学的検査:知能(WAIS)、記憶(WMS-R)、注意(TMT・CAT)、段取りの力(BADS)などの検査を組み合わせて行います(Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務 20頁、標準リハビリテーション医学 第4版 245頁)。知能指数が高くても社会生活がうまくいかない人がいるため(標準リハビリテーション医学 第4版 244頁)、検査の点数だけでなく、生活の様子と合わせて示すことが大切です。
- 日常生活状況報告:ご家族など、ふだんの様子を知る人が、事故の前と後で、できることや困った行動がどう変わったかを書く書式です(Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務 270頁〜272頁)。日々の言動、家での過ごし方、職場や学校での様子を具体的に書いた書面を添え、検査結果と食い違いがないようにします(同 46頁・49頁)。
- 神経系統の障害に関する医学的意見:主治医が、画像、検査結果、身の回りの動作、てんかん発作の有無と薬、認知・情緒・行動の障害などを記入する書式です(同 47頁、268頁・269頁)。

症状固定の時期
- 受傷
直後画像(脳の小さな出血など)と、意識障害の記録(JCS・GCS) - 3か月
ほど脳が縮む・脳室が広がる変化は、おおむね固まるとされる。その後の画像もそろえる - 6〜12
か月受傷からおおむね6〜12か月前後が、最終的な評価を考えてよいとされる時期
高次脳機能障害は時間とともに軽くなることが多く、最終的な評価は受傷からおおむね6〜12か月前後に行うことを考えてよいとされています(Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務 21頁)。急性期の結果だけで判断せず、時期をおいて検査を重ね、回復の経過をみます(同 37頁・38頁)。症状固定については症状固定とは何かをご覧ください。
結果に納得できないとき
出し直す書面も、生活の実態に沿って具体的に
非該当や、実態より軽い等級とされたときは、資料をそろえ直して異議申立てができます。出し直す書面も、ご本人のふだんの生活の実態に沿って、具体的に書くことが大切です。自賠責に出した書面の内容と実際の生活の様子が食い違っていると、のちの裁判で、自賠責より軽い等級とされることがあるためです(Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務 49頁、109頁・110頁)。
こんなときはご相談ください

ひとつでも当てはまったら
- 事故のあと物忘れや怒りっぽさなどの変化があるのに、診断書に高次脳機能障害と書かれていない
- 「CTやMRIに異常はない」と言われ、後遺障害に当たらない(非該当)とされた
- 認められた等級が、ご家族からみた日常生活の実態より軽いと思う
- 保険会社から症状固定を促されているが、まだ回復の途中だと思う
- 介護や見守りが必要で、将来の介護の費用や住まいの改修が心配
- ご本人が判断できる状態になく、成年後見の申立てを含めて進め方が分からない
参考文献
- 自動車損害賠償保障法施行令 2条1項、別表第一・別表第二(備考六を含む)
- 民法7条、404条、417条の2、722条1項、843条1項、859条1項
- 法務省「令和8年4月1日以降の法定利率について」
- 自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)第3
- 「障害等級認定基準について」(昭和50年9月30日基発第565号)
- 標準脳神経外科学 第15版(医学書院)261頁、266頁、269頁〜271頁、276頁・277頁、280頁
- 標準リハビリテーション医学 第4版(医学書院)242頁〜245頁
- 頭部CT・MRIの撮像・読影マスター(日本医事新報社)92頁・93頁、106頁
- ここまでわかる頭部救急のCT・MRI(メディカル・サイエンス・インターナショナル)12頁、267頁
- Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務(ぎょうせい)20頁〜24頁、27頁、37頁〜43頁、46頁〜50頁、55頁・56頁、62頁・63頁、68頁、109頁・110頁、158頁・159頁、163頁・164頁、169頁〜171頁、182頁〜184頁、264頁、268頁〜272頁
- 公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(赤い本)2020年版 上巻 99頁・196頁



