この記事のポイント
- 被害者の側にも落ち度があると、その割合の分だけ賠償額が減らされます(過失相殺)。保険会社が示す割合は相手方の考えで、話し合いで決まらなければ最後は裁判所が決めます。
- 裁判所の目安は別冊判例タイムズ38号。事故の形ごとの基本の割合を、速度違反や夜間などの修正要素で増減させます。
- 割合を争うには、事故の形を証拠で示す必要があります。ドライブレコーダーの映像や実況見分調書などを早めに確保しましょう。
交通事故の賠償では、事故の原因が被害者の側にも少しあると、その分だけ賠償額が減らされます。これを「過失相殺」といい、当事者それぞれの落ち度を割合で表したものを「過失割合」と呼びます。損害が1,000万円の事故なら、割合が10%違うだけで、受け取る額は100万円変わります。
この頁では、過失割合が誰にどのように決められるのか、裁判所が目安にしている基準と割合を動かす事情、計算の例、示された割合に納得できないときに集めたい証拠を、交通事故を扱う弁護士がまとめました。事故の形ごとの基本の割合は、表から当事者ごとの頁をご覧ください。
過失割合とは? 過失相殺とは?



車同士の事故では「20対80」のように双方の割合で表しますが、歩行者と車の事故の基準は、歩行者の側からどれだけ差し引くか(過失相殺率)だけを示しています(別冊判例タイムズ38号 44頁)。
過失割合は誰がどう決める?
保険会社の提示は相手方の考えです

保険会社が示談を代行する仕組みがあるため、裁判の前に話し合いが持たれることが多く(別冊判例タイムズ38号 21頁)、その中で相手の保険会社から「今回は○対○です」と割合を示されることがあります。
けれども、これは相手方の考えにすぎず、話し合いで決まらなければ、最後は裁判所が決めます(民法722条2項)。

裁判所の目安:別冊判例タイムズ38号

この本は、歩行者と車、歩行者と自転車、車同士、バイクと車、自転車と車、高速道路、駐車場の事故について、事故の形ごとに図と基本の割合を示し、割合を増減させる事情(修正要素)を挙げています(同 24頁〜42頁の細目次)。
基本の割合は「目安」です
ただ、基本の割合は、図に描かれた典型的な事故を前提にした目安です。この本自身が、機械的に当てはめず、事故ごとの事情に応じて柔軟に使うべきだとしています(同 i頁、21頁、43頁)。
信号の色や、一時停止の規制があったか、どちらの道が広いかについて言い分が食い違えば、当てはめる図そのものが変わります(同 208頁、213頁)。事故の形がはっきりしなければ割合も決められない、と指摘する実務書もあります(実務裁判例 交通事故における過失相殺率 第3版 v頁)。
割合を動かす「修正要素」とは?
たとえば、青信号どうしの右折車と直進車の事故では、直進車が時速15km以上の速度違反なら直進車に10%、30km以上なら20%が加えられ、右折車が徐行しなかったときは右折車の割合が10%増えます(別冊判例タイムズ38号 228頁)。
信号機のない横断歩道の事故では、夜間であれば歩行者に不利に、歩行者が児童・高齢者や幼児であれば有利に修正されます(同 88頁)。
また、次のような運転などは「著しい過失」、さらに重いものは「重過失」として、その側の割合を大きくする方向に修正されます(同 58頁・59頁)。
- 一般道でおおむね時速15km以上30km未満の速度違反
- 酒気帯び運転
- 携帯電話で通話したり画面を見たりしながらの運転
- 一般道でおおむね時速30km以上の速度違反
- 酒酔い運転
- 居眠り運転
- 無免許運転
事故の形ごとの基本の割合は?(当事者ごとの頁)

| 当事者 | 事故の形の例(図の番号・頁) | 基本の割合 | 詳しい頁 |
|---|---|---|---|
| 歩行者と車 | 信号機のある横断歩道を青信号で渡り始めた歩行者と、赤信号で進んできた車(【1】66頁) | 歩行者 0 | 歩行者と車の事故の過失割合 |
| 歩行者と車 | 信号機のない横断歩道を渡っていた歩行者と車(【20】88頁) | 歩行者 0 | 歩行者と車の事故の過失割合 |
| 車同士 | 信号機のある交差点での、青信号の車と赤信号の車の出会い頭(【98】208頁) | 青信号の車 0:赤信号の車 100 | 車同士の事故の過失割合 |
| 車同士 | 信号機のない同じくらいの幅の交差点での、同じくらいの速さの車同士の出会い頭(【101】215頁) | 左から来た車 40:右から来た車 60 | 車同士の事故の過失割合 |
| 車同士 | 青信号どうしの、直進車と対向の右折車(【107】228頁) | 直進車 20:右折車 80 | 車同士の事故の過失割合 |
| 車同士 | 赤信号や渋滞で止まっていた車への追突(293頁) | 追突された車 0 | 車同士の事故の過失割合 |
| 車同士 | 理由のない急ブレーキをかけた車への追突(【154】294頁) | 追突した車 70:急ブレーキの車 30 | 車同士の事故の過失割合 |
| バイクと車 | 青信号どうしの、直進するバイクと対向の右折車(【175】327頁) | バイク 15:車 85 | バイクと車の事故の過失割合 |
| 自転車と車 | 青信号どうしの、直進する自転車と対向の右折車(【249】402頁) | 自転車 10:車 90 | 自転車と車の事故の過失割合 |
| 高速道路 | 走行車線から追越車線に移った車と、追越車線を後ろから来た車(【314】470頁) | 後ろから来た車 20:車線を移った車 80 | 高速道路の事故の過失割合 |
| 駐車場 | 駐車場の通路が交わる所での、車同士の出会い頭(【334】498頁) | 50:50 | 駐車場の事故の過失割合 |
同じ右折車と直進車の事故でも、直進してきたのが車、バイク、自転車と変わるにつれ、直進した側の割合は20、15、10と小さくなります。
追突は、前の車が理由なく急ブレーキをかけた場合などを除き、原則として追突した側の一方的な過失とされます(同 293頁・294頁)。
基本の割合の背景にある、道路交通法の決まり
基本の割合の背景には、道路交通法の決まりがあります。
- 横断歩道:横断歩道に近づく車は、渡ろうとする人がいないことが明らかなときのほかは、手前で止まれる速さで進み、渡っている人や渡ろうとする人がいれば、手前で一時停止し、その通行を妨げてはなりません(同法38条1項)。止まっている車のかげなどで、渡ろうとする人がいるか確かめられないときも、手前で止まれる速さで進む義務があると解説されています(執務資料 道路交通法解説 18訂版 368頁・369頁)。
- 右折:交差点で右折する車は、直進する車の進行を妨げてはなりません(同法37条)。
- 信号機のない交差点:原則として左から来る車の進行を妨げてはなりません(同法36条1項1号)。
- 車間距離:前の車との間には、急に止まられても追突を避けられる距離をとる必要があります(同法26条)。
- 急ブレーキ:危険を避けるためやむを得ない場合のほかは、急ブレーキをかけてはなりません(同法24条)。
過失相殺の計算はどうなる?

損害の合計が1,000万円で、そのうち治療費200万円を相手の保険会社がすでに病院に払っている場合で計算してみます。
- 損害の全体治療費も含めて1,000万円
- 被害者の過失の割合を掛ける過失が20%なら、過失相殺のあとの損害は800万円
- すでに払われた治療費を差し引く相手の保険会社が病院に払った200万円
- これから受け取る額は600万円
| 被害者の過失 | 過失相殺のあとの損害 | すでに払われた治療費 | これから受け取る額 |
|---|---|---|---|
| 0% | 1,000万円 | 200万円 | 800万円 |
| 10% | 900万円 | 200万円 | 700万円 |
| 20% | 800万円 | 200万円 | 600万円 |
| 30% | 700万円 | 200万円 | 500万円 |
治療費にも割合が掛かります
過失が20%なら、これから受け取る額は800万円から600万円へと4分の1減ります。治療費にも割合が掛かるため、ご自身の過失の分の治療費(この例では40万円)は、残りの賠償金から差し引かれる形になります。
双方の車が壊れたときは、それぞれの損害に相手の過失の割合を掛けた額を、互いに負担し合います。計算の仕方は交通事故の過失割合と損害賠償請求額の計算方法でも説明しています。
ご自身の過失が大きいときに役立つ保険
割合に納得できないときは、何をすればいい?
割合を争うには、まず事故の形を証拠で示す必要があります。交通事故は物の証拠が乏しいことが多く(交通事故実況見分調書作成実務必携 9頁)、現場の跡も時間とともに失われていきます(同 8頁)。早いうちに、次のものを確保してください。
ドライブレコーダーと防犯カメラの映像
ドライブレコーダーや現場の周りの防犯カメラの映像は、「有力な目撃者」にもなると捜査の実務書は述べています(同 9頁)。
映像は、消える前に保全を
ドライブレコーダーには、急な加速や減速を感知した前後の数十秒だけを残すものや、数時間から十数時間分を上書きしながら録り続けるものなどがあり、映像は加工もしやすいため、事故のあと速やかに保全することが必要とされています(同 51頁)。記録媒体(SDカードなど)を抜き、パソコンなどに写しを残してください。
実況見分調書
人身事故では、警察が事故の現場を調べ(実況見分)、その結果を実況見分調書にまとめます。
調書の図面には、相手を見つけた地点、危ないと感じた地点、ブレーキやハンドルで避けようとした地点、ぶつかった地点、止まった地点などが、立ち会った人の説明と路面の跡を照らし合わせて書き込まれます(同 31頁〜35頁)。どこで相手が見えたか、どれだけの距離で止まろうとしたかは、前をよく見ていたか、速度が出すぎていなかったかを考える手がかりになります。

ただ、けがで救急搬送された当事者は、事故直後の見分に立ち会えないことがあります。その場合は、立ち会える関係者や目撃者の説明で見分が行われ、それで事故の状況が明らかになったとされれば、被害者の立会いのないまま終わることもあります(同 314頁)。相手の説明だけで図面が作られていないか、早めに確かめてください。
また、物損事故として扱われると、実況見分調書がなく、簡単な図面の付いた物件事故報告書しかないことがあります(別冊判例タイムズ38号 6頁)。けがをしたときは物損事故から人身事故への切り替えも考えてください。
刑事記録の取り寄せ

- 不起訴になった事件:検察庁に、実況見分調書などの閲覧・謄写(写しを取ること)を申請します。弁護士が代理で申請したり、弁護士会を通じて照会したり(弁護士法23条の2)することもできます。供述調書が開示される場合は限られています(別冊判例タイムズ38号 6頁)。
- 起訴されて刑事裁判が続いている事件:第1回の公判期日のあと、被害者は、その裁判所に記録の閲覧・謄写を申し出ることができます(犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律3条1項)。
- 刑事裁判が終わった事件:記録は原則として誰でも閲覧でき(刑事訴訟法53条1項)、保管している検察庁に閲覧・謄写を申請します。
- 相手が少年の事件:家庭裁判所が審判を開始する決定をしたあと、家庭裁判所に閲覧・謄写を申し出ます(少年法5条の2第1項)。
- 物損事故として扱われた事故:警察署の物件事故報告書を、弁護士会を通じて照会します。
記録には保存の期間があります
捜査が続いている間の記録は、開示されないのが一般的です(講演録 2024年版 288頁)。一方で、記録には保存の期間があり、過ぎると手に入らなくなります(別冊判例タイムズ38号 5頁)。民事裁判を起こしたあとは、裁判所から記録の送付を頼んでもらう方法(文書送付嘱託。民事訴訟法226条)もあります(同 6頁)。
車の壊れ方と現場の写真、目撃者
車の壊れた場所や程度は、どのようにぶつかったかを推し量る手がかりになります。
写真と連絡先を残しておく
- 車の壊れ方:修理の前に、いくつかの方向から撮っておいてください。
- 現場の写真:撮った人、日時、方向が分かるようにしておくと、裁判でも使いやすくなります(同 6頁)。
- 目撃者:その場にいた人がいれば、連絡先を聞いておくことも大切です(交通事故実況見分調書作成実務必携 9頁)。
こんなときはご相談ください

ひとつでも当てはまったら
- 保険会社から示された過失割合に納得できない
- 相手が、信号の色や一時停止の有無など、事故の状況をこちらと違うように説明している
- 横断歩道を渡っていたのに、歩行者の側にも過失があると言われた
- 救急搬送されて、実況見分に立ち会えなかった
- ドライブレコーダーの映像や刑事記録を、どう使えばよいか分からない
- ご自身の過失が大きく、自賠責保険や人身傷害保険をどう使うか迷っている
- 弁護士費用特約が使えるか知りたい(弁護士特約の使い方)
参考文献
- 民法722条2項
- 道路交通法24条、26条、36条1項、37条、38条1項
- 刑事訴訟法53条1項、犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律3条1項、少年法5条の2第1項、民事訴訟法226条、弁護士法23条の2
- 自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)第6
- 東京地裁民事交通訴訟研究会編『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版』別冊判例タイムズ38号(判例タイムズ社)i頁・ii頁、5頁・6頁、21頁・22頁、24頁〜42頁、43頁・44頁、58頁・59頁、66頁、88頁、208頁、213頁、215頁、228頁、293頁・294頁、327頁、402頁、470頁、498頁
- 交通事故・事件捜査実務研究会編『交通事故実況見分調書作成実務必携』(立花書房)8頁・9頁、31頁〜35頁、51頁、314頁
- 伊藤秀城『実務裁判例 交通事故における過失相殺率―自転車・駐車場事故を中心にして―〔第3版〕』(日本加除出版、2023年)v頁(初版はしがき)
- 道路交通執務研究会編著『執務資料 道路交通法解説 18訂版』(東京法令出版)368頁・369頁
- 公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 下巻(講演録編)』2024年版 288頁〜290頁



