この記事のポイント
- 青信号で横断歩道を渡っていた人や、歩道を歩いていた人には、原則として過失はありません。
- 歩行者の割合は、事故の形ごとの基本の割合を、夜間・幹線道路・年齢・運転の仕方などの事情(修正要素)で足し引きして決まります。
- 信号の切り替わり、現場の明るさ、ドライブレコーダーの映像などの証拠しだいで、受け取る額が変わることがあります。


この頁では、歩行者の事故に多い事故の形とけが、歩行者を守る道路交通法の決まり、裁判所が目安にしている基本の割合と修正要素、計算の例、集めておきたい証拠を、交通事故を扱う弁護士がまとめました。過失割合の全体の考え方は交通事故の過失割合をご覧ください。
歩行者の事故には、どんな形とけがが多い?
多いのは、道路を渡っているときの事故

歩行者に多いけがは?
交通事故で亡くなる人のうち、歩いていた人は約3割を占め、その多くは頭のけがによるものです(交通外傷 メカニズムから診療まで 41頁)。
時速40kmでの衝突を解析した結果では、大人が車の前面にはねられると、バンパーで脚の骨折や膝の靱帯の断裂が、ボンネットの縁で骨盤などの骨折が、フロントガラスや窓の柱(Aピラー)で脳のけがや頭蓋底骨折が起こりうるとされています(同 47頁)。重傷では、年齢にかかわらず脚のけがが多いという分析もあります(同 44頁)。

道路交通法は、歩行者をどう守っている?

横断歩道での歩行者の優先(38条)
車は、渡ろうとする人がいないことが明らかな場合を除き、横断歩道の手前で止まれる速さで近づき、渡っている人や渡ろうとしている人がいれば一時停止しなければなりません(1項)。
止まっている車のかげや雨の夜の暗がりなどで、渡ろうとする人がいるか分からないときも同じで、横断歩道の近くでは徐行に近い速さまで落とすべきだと解説されています(執務資料 道路交通法解説 18訂版 368頁・369頁)。
横断歩道の手前で止まっている車の横を通ってその前に出るときは、前に出る前に一時停止が必要です。ただし、自分の車が通るときに信号などで歩行者の横断が禁じられている横断歩道は除かれます(2項)。
- 横断歩道のない交差点(38条の2):交差点やそのすぐ近く(おおむね10m以内とする見解があります。執務資料 道路交通法解説 18訂版 388頁)で横断歩道のない所を渡っている歩行者の通行を妨げてはなりません。
- 歩道を横切る車(17条):駐車場などに出入りする車は、歩道や路側帯に入る直前で一時停止し、歩行者の通行を妨げてはなりません。
- 子どもや高齢の方などの保護(14条3項・71条2号・2号の2):付き添いのいない児童(6歳以上13歳未満)や幼児(6歳未満)、つえを持った目の見えない方、車いすの方、高齢や体の障害などで通行に支障のある歩行者が通行しているときは、運転者は一時停止か徐行をして、通行を妨げてはなりません。
- 歩行者の横断の方法(12条・13条):歩行者は、横断歩道がある場所の付近では横断歩道を渡らなければなりません。また、標識などで斜めの横断が認められた交差点を除き、斜めに渡ってはいけません。車のすぐ前やすぐ後ろ(横断歩道や信号に従うときを除きます)や、横断が禁じられた場所を渡ることも禁じられています。
- 歩く場所(10条):歩道のない道路では原則として右側の端を歩き、歩道がある道路では歩道を歩きます。
事故の形ごとの基本の割合は?
示されるのは「歩行者から差し引く割合」だけ
別冊判例タイムズ38号は、歩行者と車の事故では「○対○」ではなく、歩行者の側から差し引く割合(過失相殺率)だけを示しています(同 60頁)。典型的な事故を想定した一応の目安で、事故ごとの事情に応じて修正されます(同 21頁)。【 】は同書の図の番号です。
信号機のある横断歩道
信号の色は、歩行者は渡り始めたとき、車は停止線(なければ横断歩道や交差点)の手前での色で考えます。青の点滅は黄と同じに扱います(同 65頁・67頁)。
横断歩道の端からおおむね1〜2m以内の所を渡っていたときも、横断歩道の上と同じに扱うのが基本です(同 49頁・64頁)。
| 歩行者の信号 | 直進してきた車の信号 | 歩行者の基本の割合 | 図の番号・頁 |
|---|---|---|---|
| 青で渡り始めた | 赤 | 0% | 【1】66頁 |
| 黄(青の点滅を含む)で渡り始めた | 赤 | 10% | 【2】67頁 |
| 赤で渡り始めた | 赤 | 20% | 【3】68頁 |
| 赤で渡り始めた | 黄 | 50% | 【4】69頁 |
| 赤で渡り始めた | 青 | 70% | 【5】70頁 |
| 青で渡り始め、途中で赤に変わった | 赤 | 0% | 【6】71頁 |
| 青で渡り始め、途中で赤に変わった | 青 | 20% | 【8】73頁 |
途中で赤に変わり、青信号の車にはねられた場合の20%は、道路の中央に安全地帯がないときの数字です(同 73頁)。赤信号の車にはねられた場合の0%は、安全地帯があっても同じと考えられています(同 71頁)。

交差点を右折・左折してきた車との事故では、歩行者も車も青なら歩行者の割合は0%、歩行者が赤で車が青なら50%が基本です(同 78頁・81頁)。横断歩道の信号機が黄や赤の点滅を表示していたときは、信号機のない横断歩道の基準(【20】)によります(同 65頁・88頁)。
信号機のない横断歩道
信号機のない横断歩道を渡っている歩行者は、車との関係で非常に強く保護され、原則として過失は問われません(基本の割合0%。【20】88頁)。
わずかな過失が考えられることもあります
ただし、夜間の暗い場所、車が速く走る幹線道路、渋滞の列の間や止まっている車のかげからの横断などでは、歩行者にもわずかな過失が考慮されることがあります。その場合でも、車が減速せずに近づいてきたときは、車の著しい過失として扱うべきだとされています(同 87頁)。
横断歩道の近くや、横断歩道のない場所
| 渡った場所 | 歩行者の基本の割合 | 図の番号・頁 |
|---|---|---|
| 横断歩道の付近(横断歩道を使わずに、その近くを渡った) | 30% | 【33】104頁 |
| 横断歩道のない交差点やその直近で、幹線道路など広い道路を渡った | 直進車と20%、右左折車と10% | 【34】106頁 |
| 横断歩道のない交差点やその直近で、狭い道路を渡った | 10% | 【35】107頁 |
| 横断歩道のない交差点やその直近で、道路の間に優先関係がない(優先道路でも、明らかに広い道路でもない)所を渡った | 15% | 【36】108頁 |
| 横断歩道も交差点も近くにない場所を渡った | 20% | 【37】110頁 |
横断歩道の「付近」は、車道の幅がおおむね14m以上(片側2車線以上)の幹線道路では横断歩道の端から40〜50m以内、それ以外の道路では20〜30m以内が目安です(同 49頁・89頁)。
付近では横断歩道を渡る決まりがあるため(道路交通法12条1項)、横断歩道も交差点も近くにない場所(20%)より重い30%が基本です(別冊判例タイムズ38号 89頁・104頁・110頁)。
歩道橋の近くも同じですが、ベビーカーを押す人や高齢の方など、歩道橋を使いにくい人は別に考えます(同 89頁)。信号機のある横断歩道のすぐ近く(直近)には、信号の色ごとに別の基準があります(同 89頁以下)。
歩道や道路を歩いていたとき
| 歩いていた場所など | 歩行者の基本の割合 | 図の番号・頁 |
|---|---|---|
| 歩道や、幅がおおむね1m以上の路側帯(駐車場などに出入りする車にぶつけられた) | 0% | 【39】114頁 |
| 歩道のない道路の右側の端 | 0% | 【43】120頁 |
| 歩道のない道路の左側の端(右側の端を歩いていれば避けられた場合など) | 5% | 【44】121頁 |
| 歩道がある道路で、車道の端を歩いていた | 工事などでやむを得ないとき10%、それ以外20% | 【40】115頁・【41】117頁 |
| 道路に寝ていた(昼間/夜間) | 30%/50% | 【47】124頁・【48】125頁 |
車が歩道を横切るときの事故では、歩道の歩行者は原則として過失相殺されません。幅が1mに満たない路側帯の上を歩いていたときも同じです(同 114頁)。
歩道のない道路の左側の端を歩いていても、そのことが事故と関係がなければ、右側の端と同じ基準によってよいとされています(同 121頁)。道路に寝ていた人の事故は、車から見つけにくい夜間のほうが歩行者の割合が大きくなります(同 123頁)。
割合を動かす「修正要素」とは?
基本の割合は、次のような事情で増減します。事情が重なればそれぞれ足し引きしますが、「児童・高齢者」と「幼児・身体障害者等」、車の「著しい過失」と「重過失」のような同じ種類の事情は、一方だけを使います(同 60頁・62頁)。
歩行者の割合を増やす事情
- 夜間:日没から日の出までです。車から歩行者が見えにくいため、原則として5%を加えます。ただし、街灯などで歩行者がよく見える場所や、車がライトをつけていなかった場合は加えません(同 58頁・61頁)。
- 幹線道路:歩道と車道が分かれ、車道の幅がおおむね14m以上(片側2車線以上)で、車が速く走り、交通量の多い道路です(同 49頁・60頁)。
- 車のすぐ前やすぐ後ろの横断、立ち止まり・後戻り、急な飛び出し、大きなふらつき:禁じられた斜め横断も同様です。ただ、車の側が「飛び出してきた」と言う例は少なくないものの、その判断は慎重にすべきだとされています(同 58頁・61頁・62頁)。
- 横断禁止の規制:歩道と車道が分かれ、標識やガードレールなどで横断してはいけない場所だとすぐ分かることが前提です(同 61頁)。
歩行者の割合を減らす事情
- 児童・高齢者、幼児・身体障害者等:児童は6歳以上13歳未満、幼児は6歳未満、高齢者はおおむね65歳以上の人です。判断する力や動く力が十分でない人を特に守るためで、多くの図で幼児・身体障害者等のほうが減らす幅は大きくなっています(同 61頁、68頁〜70頁)。
- 住宅街・商店街:人の横断や通行が多い、または多いと予想される場所です。深夜で人通りがなくなった住宅街などは含みません(同 62頁)。
- 集団での横断・通行:集団登下校が典型です(同 62頁)。
- 歩道と車道の区別のない道路:生活道路の性格があり、車には歩行者の動きへの一層の注意が求められます(同 61頁)。
- 車の著しい過失・重過失:わき見や、携帯電話で話したり画面を見たりしながらの運転、おおむね時速15km以上30km未満の速度違反、酒気帯び運転などは著しい過失、酒酔い・居眠り・無免許運転や、おおむね時速30km以上の速度違反などは重過失です(同 62頁・63頁)。横断歩道の手前で歩行者のために止まっている車の横を追い抜いた場合も、著しい過失とされます(同 62頁)。

計算すると、受け取る額はどう変わる?
受け取る額がどう変わるかを、架空の事故で計算してみます。夜、片側2車線の幹線道路で、近くに横断歩道も交差点もない所を渡っていた75歳の方が、直進してきた車にはねられた事故とします(【37】110頁)。
| 事情 | 歩行者の割合 |
|---|---|
| 基本(横断歩道も交差点も近くにない場所) | 20% |
| 夜間 | +5% |
| 幹線道路 | +10% |
| 高齢者 | −5% |
| 合計 | 30% |
この事故で、運転者がスマートフォンの画面を見ながら運転していたことが証拠で分かれば、車の著しい過失として10%減って20%になります。さらに、現場が街灯で明るく、歩行者がよく見えたことを示せれば、夜間の5%も加えられず15%になります(同 61頁・62頁・110頁)。
損害の合計が2,000万円で、そのうち治療費400万円を相手の保険会社がすでに病院に払っているとします。過失相殺は、すでに払われた分も含めた損害の全体に割合を掛け、そのあとで払われた分を差し引きます(同 21頁)。
| 歩行者の割合 | 過失相殺のあとの損害 | すでに払われた治療費 | これから受け取る額 |
|---|---|---|---|
| 30% | 1,400万円 | 400万円 | 1,000万円 |
| 20% | 1,600万円 | 400万円 | 1,200万円 |
| 15% | 1,700万円 | 400万円 | 1,300万円 |
証拠で示せるかどうかで、額が変わる
同じ事故でも、運転者のスマートフォンの使用や現場の明るさを証拠で示せるかどうかで、受け取る額が300万円変わります。
計算の仕方は過失割合と損害賠償請求額の計算方法で、ご自身の過失が大きいときに役立つ保険は交通事故の過失割合で説明しています。
歩行者の事故では、どんな証拠を集めておく?

歩行者の割合は、信号の色、渡った場所、夜の明るさ、運転の仕方で大きく変わります。救急搬送されてご自身で説明できないこともあるため、次の点をご家族とも早めに確かめてください。
集めておきたい4つの証拠
- 信号の色と切り替わりの時間:歩行者の信号は渡り始めたときの色で考えます(別冊判例タイムズ38号 65頁)。どこから渡り始めたか、歩行者用と車両用の信号がどの順で何秒ごとに変わるかが大切です。実況見分調書の書式でも、事故に影響した事情として信号機のサイクルなどを書くこととされています(交通事故実況見分調書作成実務必携 329頁)。
- 渡った場所と、横断歩道や交差点からの距離:横断歩道の上か、付近か、それより離れた所かで基本の割合が変わります(別冊判例タイムズ38号 49頁・64頁・89頁)。現場の写真を撮り、距離を測っておいてください。
- 運転者がどこで歩行者に気づけたか:実況見分では、相手を見つけた地点と、見つけることができた地点が、過失を判断する大切な地点とされます(交通事故実況見分調書作成実務必携 35頁)。夜は昼と見え方が大きく違うため、事故の直後に車のライトを使って見え方を確かめるのが基本とされています(同 36頁)。街灯の位置や明るさも記録してください。
- ドライブレコーダーと防犯カメラの映像:捜査の実務書も、これらのデータの確保を求めています(同 19頁)。上書きで消える前に保存を頼んでください。
物損事故の扱いでは、記録が少ないことがあります
物損事故として扱われると、実況見分調書が作られず、簡単な図面の付いた物件事故報告書しかないことがあります(別冊判例タイムズ38号 6頁)。けがをしたときは、物損事故から人身事故への切り替えもご覧ください。実況見分調書などの刑事記録の取り寄せ方は、交通事故の過失割合で説明しています。
こんなときはご相談ください

ひとつでも当てはまったら
- 横断歩道を渡っていたのに、保険会社から歩行者にも過失があると言われた
- 青信号で渡り始めたのに、途中で信号が変わったことを理由に割合を示された
- 相手の運転者が「急に飛び出してきた」と説明している
- 夜間や幹線道路であることを理由に、割合を加えられた
- 子どもや高齢のご家族がはねられ、修正要素が考えられているか分からない
- 弁護士費用特約が使えるか知りたい(弁護士特約の使い方)
参考文献
- 道路交通法10条1項・2項、12条、13条、14条3項、17条1項・2項、38条1項・2項、38条の2、71条2号・2号の2
- 東京地裁民事交通訴訟研究会編『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版』別冊判例タイムズ38号(判例タイムズ社)6頁、21頁、49頁、58頁、60頁〜71頁、73頁、78頁、81頁、87頁〜89頁、104頁、106頁〜108頁、110頁、114頁・115頁、117頁、120頁・121頁、123頁〜125頁
- 道路交通執務研究会編著『執務資料 道路交通法解説 18訂版』(東京法令出版)368頁・369頁、388頁
- 交通事故・事件捜査実務研究会編『交通事故実況見分調書作成実務必携』(立花書房)19頁、35頁・36頁、329頁
- 一杉正仁・西山慶編『交通外傷 メカニズムから診療まで』(名古屋大学出版会)41頁・42頁、44頁、47頁



