この記事のポイント
- 後遺障害の等級は、医師が書く「後遺障害診断書」と画像・検査の資料で審査されます。
- 書いてもらうのは症状固定のあと。症状は場所・出方・生活の支障まで具体的に伝えます。
- できあがったら、出す前に写しを取って書き漏れを確かめることが大切です。


後遺障害診断書とは
治療を続けても症状が残ったとき、後遺障害の等級の認定を受けるために欠かせない書類が「後遺障害診断書」です。「後遺症診断書」とも呼ばれます。
自賠責保険の審査は書面が中心で(交通事故におけるむち打ち損傷問題 第3版 194頁)、使われる資料は、後遺障害診断書、医療機関への照会の結果、画像などに限られます(赤い本 2013年版 下巻 31頁・32頁)。同じ症状でも、診断書に何がどう書かれているかで、結果が変わることがあります。

むち打ち損傷の認定で重要とされる4つの点
- 事故の衝撃が、その症状が出る程度のものであること
- 事故の直後から病院に通い続けていること
- 事故の直後から症状固定まで、同じ症状を訴え続けていること
- 後遺障害診断書の自覚症状と、画像・神経学的検査の所見が食い違わないこと
2と3は治療中の経過の診断書で、4は後遺障害診断書で示されるものです(むち打ち損傷ハンドブック 第4版 171頁)。等級の認定は、原則として労災保険の障害等級の認定基準に準じて行われます(自賠責保険の支払基準 第3)。
痛み・しびれの等級は「証明」できるかで分かれる
自覚症状だけで証明があったとはされません(交通事故におけるむち打ち損傷問題 第3版 192頁・196頁)。14級が認められたときの賠償の計算は後遺障害14級の慰謝料と逸失利益の計算方法で、14級と12級の分かれ目は「むち打ち」で後遺障害認定を取得する方法と首・背中・腰の後遺障害で、部位ごとに必要な検査は交通事故の後遺障害(けがの部位から探す)で説明しています。
いつ頼む? 症状固定のあとです
- 事故けが。すぐに病院へ。事故の直後から通院を続けます
- 治療中症状を毎回伝え、カルテに残してもらいます
- 目安
6か月むち打ち損傷では、けがから6か月がたち、手術や新しい検査・治療の予定がないときに症状固定とするのが一般的とされています(むち打ち損傷ハンドブック 第4版 168頁) - 症状
固定ここで後遺障害診断書を書いてもらいます - 申請事前認定か被害者請求で出します
- 結果等級の通知。納得できなければ異議申立て
症状固定とは、一般に認められた治療をしても効果が期待できなくなり、残った症状が最終の状態に達したことをいいます(赤い本 2013年版 下巻 8頁・9頁)。時期が争われた裁判では、医師の判断を踏まえ、けがと症状の内容、症状の推移、治療の内容、通院の経過、検査の結果などから、その判断が合理的かを検討するのがおおむねの傾向とされています(同 10頁〜12頁)。
診断書に書く「症状固定日」は、通常は後遺障害を診察・検査した日で、将来の収入の減少分(逸失利益)を計算する基礎になる日です(むち打ち損傷ハンドブック 第4版 172頁)。
「そろそろ症状固定に」と言われたら
症状固定のあとの治療費は、原則として賠償の対象になりません(赤い本 2013年版 下巻 9頁)。保険会社に言われただけで決まるものではありません。治療で良くなっているかを、主治医とよく相談してください。詳しくは症状固定とは何かをご覧ください。
頼み方の手順
用紙は保険会社が用意している決まった書式で(むち打ち損傷ハンドブック 第4版 169頁)、損害保険会社と自賠責損害調査事務所に備え付けられています(同 175頁)。
- 主治医と、症状固定の時期を相談する
- 用紙を用意する相手の保険会社、または相手の車の自賠責保険会社から
- 必要な検査が済んでいるかを確かめる下の「欄ごとの確認表」を使います
- 診察の予約をして、症状メモを渡し、書いてもらう症状メモの作り方は下で説明します
- 受け取ったら写しを取り、書き漏れを確かめる
- 事前認定か被害者請求かを決めて出す

等級は書いてもらうものではありません
用紙にも、等級は書かないよう注意書きがあります(むち打ち損傷ハンドブック 第4版 176頁)。主治医の先生に向けた要点は医師の方へにまとめていますので、先生にご紹介いただいてもかまいません。
費用と領収書
作成には費用がかかります。金額は依頼する医療機関に確かめてください。自賠責保険の支払基準は、診断書などの発行に必要かつ妥当な実費を、けがによる損害として支払の対象にしています(支払基準 第2の1(1)⑩)。領収書は捨てずに保管し、ほかの損害とあわせて請求します。
医師が書いてくれないとき

診察をした医師は、診断書を求められたときは、正当な理由がなければ断ってはならないと定められています(医師法19条2項)。ただし、何を書くかは医師の医学的な判断です。断られたときは、まず理由を尋ねてください。理由によって、できることが違います。
| 医師の言葉・状況 | 考えられる事情 | できること |
|---|---|---|
| 「まだ症状固定ではない」 | 治療を続ければ良くなると考えている | 治療を続け、症状固定の見込みの時期を尋ねる。相手の保険会社が治療費の支払を止めても、健康保険で通院を続けられる(むち打ち損傷ハンドブック 第4版 168頁。治療費打ち切り) |
| 「後遺症は残っていない」 | 症状が伝わっていない、または症状を裏付ける所見が見つかっていない | 症状メモで場所・出方・生活の支障を伝える。MRIや神経の検査がまだなら、受けられるか相談する |
| 「健康保険で治療したから書けない」 | 自賠責保険の書類は扱わないという考え | 交通事故のけがも健康保険の給付の対象で(同 168頁)、医師法19条2項は保険の種類で区別していない。医療機関の窓口にも相談する |
| 「転院してきたばかりで、前の経過が分からない」 | 医師は自ら診察しないで診断書を出してはならない(医師法20条)ため、自分が診ていない時期の経過は書きにくい。入院・通院期間の欄に書くのは、その病院での期間だけ(むち打ち損傷ハンドブック 第4版 172頁) | 前の病院の診断書・画像・紹介状を渡す。前の病院にも、そこでの経過を書いてもらえるか相談する |
| 整骨院・接骨院にしか通っていない | 柔道整復師は書けない(同 172頁) | 医師の診察を受ける。整骨院だけの期間が長いと、症状が続いていたことを示しにくくなる(同 171頁) |
- 断られた理由を尋ねる
- 足りないものを補って、もう一度お願いする治療・検査・前の病院の資料・症状の伝え方(上の表のとおり)
- それでも難しいときは、別の医療機関の意見を聞くことも考えるただし、事故からかなり後に初めて受診した病院で、その病院の最後の通院日を症状固定日として書かれた診断書は、その判断の合理性をより慎重に検討する必要がある場合もあると指摘されています(赤い本 2013年版 下巻 12頁)
- 迷ったら、交通事故を扱う弁護士に相談する
書き直し・書き足しは「出す前」に
伝えた症状が抜けている、左右が違う、受けた検査の結果が書かれていない、といった書き漏れや誤りに気づいたら、出す前に医師に訂正や書き足しをお願いします。自賠責保険の認定は、認定を求めた時点の資料で行われるため(赤い本 2013年版 下巻 31頁・32頁)、出したあとでは直しにくくなります。お願いするのは事実の漏れや誤りの訂正で、医師の判断を変えてもらうことではありません。
自覚症状の伝え方

症状の出方も大切です。労災保険の認定基準は、けがをした所の痛みについて、通常の仕事はできるが、ほとんどいつも痛みが残るものを14級、時には強い痛みのために仕事にある程度差し支えがあるものを12級としています(神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準「疼痛等感覚障害」)。いつ、どんなときに、どのくらい症状が出て、仕事や生活にどう差し支えているかを伝えてください。
医師に渡す「症状メモ」(紙1枚に)
- 場所と左右:例「右の首すじから肩、腕の外側を通って、右手の親指と人差し指まで」
- 症状の種類:痛み、しびれ、力が入りにくい、動かしにくい、など
- 出方:いつもあるか、決まった動きや姿勢で出るか、天気や時間帯で変わるか。例「上を向くと右腕にしびれが走る」
- いつから・どう変わったか:事故の何日後に出たか、治療で良くなったか、変わらないか
- 生活の支障:例「洗濯物を干すとき、右腕を上げ続けられない」「痛みで夜に目が覚めることが週に何回かある」
- 仕事の支障:例「パソコン作業が1時間続くと手がしびれて、休みを入れている」
- 事故の前の状態:同じ所に症状や通院があったか(既存障害の欄にかかわります。むち打ち損傷ハンドブック 第4版 172頁)

頭のけがで高次脳機能障害が疑われるときは、医師の「神経系統の障害に関する医学的意見」や、ご家族が書く「日常生活状況報告書」も使われます。診察の時間だけでは生活の様子が分かりにくいため、ご家族も診察に同席して、ふだんの様子を伝えることが勧められています(Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務 48頁・49頁。頭部・脳の後遺障害)。
できあがった診断書の確かめ方
「精神・神経の障害 他覚症状および検査結果」の欄は、画像の所見や徒手筋力検査などの検査結果を書いて、残った症状を医学的に説明する、特に重要な欄とされています(むち打ち損傷ハンドブック 第4版 173頁)。筋力の検査は、どの筋が弱いかから、神経が傷んだ高さも推定できるものです(標準整形外科学 第14版 121頁)。
出す前に写しを取り、次の表で確かめてください。欄の名前は自賠責保険の用紙によります。近い欄はまとめて示しています(むち打ち損傷ハンドブック 第4版 172頁・173頁、176頁・177頁)。
| 欄 | 書いてもらうこと | 確かめる点 | あわせて用意する資料 |
|---|---|---|---|
| 受傷日時・症状固定日 | 事故の日と、医師が症状固定と判断した日 | 日付の誤りがないか。症状固定日は逸失利益の計算の基礎になる | 交通事故証明書 |
| 当院入院期間・通院期間 | その病院での期間 | 転院したときは、前の病院の期間はここに入らない | 前の病院の診断書・診療報酬明細書 |
| 傷病名 | 症状固定の時点で残っている症状に関する傷病名 | 残った症状の傷病名が抜けていないか | ― |
| 既存障害 | 事故の前からの障害の有無 | 事故の前の同じ部位の通院歴と食い違わないか | ― |
| 自覚症状 | 申告した症状 | 症状の一部、左右、動かしたときの痛みが抜けていないか | 症状メモ |
| 精神・神経の障害 他覚症状および検査結果 | 画像の所見と、反射・知覚・筋力・筋萎縮などの神経学的所見 | 撮った画像と受けた検査の結果が書かれているか。左右を比べた結果か(標準整形外科学 第14版 120頁・123頁) | X線・CT・MRIの画像 |
| 関節の機能障害 | けがをした側と、けがをしていない側(健側)の角度。他動と自動の両方 | 健側も測られているか。等級は原則として健側と比べ、他動運動の値で判断される(関節可動域の測定要領) | ― |
| 脊柱の障害・体幹骨の変形・醜状など | 該当する障害の部位と程度(図示を含む) | X線の添付を求める欄がある | X線の画像 |
| 目・耳・歯など | 視力・聴力などの検査の値 | 聴力はオージオグラムの添付を求める欄がある。歯は歯科用の後遺障害診断書を使う | 検査の結果表 |
| 障害内容の増悪・緩解の見通し | 病態に基づく見通し | 空欄になっていないか | ― |
| 等級 | 書かない(用紙の注意書き) | ― | ― |
出したあと:事前認定と被害者請求
出し方は2つあります(むち打ち損傷ハンドブック 第4版 169頁、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」)16条1項)。
- 手間が少ない
- どの資料を出すかは、相手の保険会社に任せることになる
- 診断書と一緒に出す画像や検査の結果などを、こちらでそろえられる
- 支払ったときは認めた等級とその理由が、支払わないときはその理由が、書面で示される(自賠法16条の4第2項・第3項)
やり方は被害者請求のメリット・デメリットとやり方、手続の全体は症状固定したときの後遺障害等級認定手続きで説明しています。結果に納得できないときは、示された理由を読み、足りなかった所見を補って異議申立てをします(後遺障害の異議申立て)。被害者請求の権利は、損害と相手の車の保有者を知った時から3年で時効にかかります(自賠法19条)。
よくある質問
後遺障害診断書を書いてもらうデメリットはありますか?
気をつけたいのは、診断書の前提となる症状固定です。症状固定のあとの治療費は原則として賠償の対象から外れ、休業損害も認められなくなります(交通事故におけるむち打ち損傷問題 第3版 74頁)。治療で良くなっているうちは急ぐ必要はありません。一方で、時期を延ばしすぎると、残った症状が事故によるものか加齢による変化かを区別しにくくなるおそれも指摘されています(むち打ち損傷ハンドブック 第4版 168頁)。等級の認定を受けること自体の損得は後遺障害認定のメリットとデメリットをご覧ください。
相手の保険会社から用紙が届きました。どうすればよいですか?
その用紙を主治医に渡して書いてもらい、相手の保険会社に返せば、事前認定の流れで進みます。被害者請求にしたいときは、相手の車の自賠責保険会社に直接出すこともできます(自賠法16条1項)。どちらにしても、出す前に写しを取り、上の確認表で確かめてください。
6か月たたないと書いてもらえませんか?
6か月は、むち打ち損傷で症状固定を考える目安とされているものです(むち打ち損傷ハンドブック 第4版 168頁)。症状固定の時期は、けがの内容や症状の推移、治療の内容などをみて判断されます(赤い本 2013年版 下巻 10頁)。6か月がたったかどうかだけで決まるものではないので、けがの内容に応じて主治医と相談してください。
けがが複数の科にまたがるときは?
科ごとに症状固定の時期が違うことがあり、その場合は診断書が複数になります(むち打ち損傷ハンドブック 第4版 172頁)。歯の障害は、歯科用の後遺障害診断書を使います(同 176頁)。
症状固定のあとも通院してよいですか?
通院は続けられます。症状固定のあとは、健康保険で治療を続けることもあります(むち打ち損傷ハンドブック 第4版 178頁)。ただ、その治療費は原則として相手に請求できません。症状の悪化を防ぐために必要な場合などに、例外として認められることがあります(赤い本 2013年版 下巻 9頁)。
こんなときはご相談ください

ひとつでも当てはまったら
- 保険会社から症状固定を促され、後遺障害診断書の用紙が届いた
- 主治医に後遺障害診断書を書いてもらえない
- できあがった診断書に足りない点がないか確かめたい
- 事前認定と被害者請求のどちらにするか迷っている
- 非該当とされた、または思っていたより低い等級だった(異議申立て)
参考文献
- 自動車損害賠償保障法 16条1項、16条の4第2項・第3項、19条
- 医師法 19条2項、20条
- 自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)第2の1(1)⑩、第3
- 厚生労働省「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」(平成15年8月8日基発第0808002号)「疼痛等感覚障害」
- 厚生労働省「せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について」(平成16年6月4日基発第0604003号)別添「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」第1の1(1)、第2の1(1)
- 遠藤健司・西村浩輔 編著『むち打ち損傷ハンドブック 第4版』(丸善出版)168頁・169頁、171頁〜173頁、175頁〜178頁
- 栗宇一樹・古笛恵子 編『交通事故におけるむち打ち損傷問題 第3版』(保険毎日新聞社)74頁、192頁、194頁、196頁・197頁
- 標準整形外科学 第14版(医学書院)120頁・121頁、123頁
- 松浦裕介・村田佳宏 編著『Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務』(ぎょうせい)48頁・49頁
- 公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(赤い本)2013年版 下巻(講演録編)高木健司「症状固定について」8頁〜12頁、有冨正剛「CRPS(RSD)の後遺症による損害の額の算定について」31頁・32頁



