この記事のポイント
- 賠償でいう「後遺障害」は、残った症状のうち法令の等級に当てはまると認められたもの。何級になるかで、受け取れる賠償額が大きく変わります。
- 等級は症状固定のあとに、後遺障害診断書などの書類をもとに判断されます。認定の求め方は事前認定と被害者請求の2つです。
- 非該当や低い等級に納得できないときは、異議申立て・紛争処理機構への申立て・裁判の方法があります。
交通事故のけがは、治療を続けても治りきらず、痛みやしびれ、関節の動かしにくさ、傷あとなどが残ることがあります。そのうち、法令で定められた等級に当てはまると認められたものが、賠償の場面でいう「後遺障害」です。等級が認められるかどうか、何級になるかで、受け取れる賠償額は大きく変わります。
この頁では、後遺障害の等級の仕組み、症状固定と等級の認定を受ける手続、全等級の賠償の目安、結果に納得できないときの方法を、交通事故を扱う弁護士がまとめました。部位ごとの症状や必要な検査は、上の一覧から各部位の頁をご覧ください。
後遺障害とは?「後遺症」とどう違う?


自動車損害賠償保障法施行令(以下「施行令」)は、後遺障害を、けがが治ったときに体に残っている障害と定め(施行令2条1項2号)、その程度に応じた等級を別表第一・別表第二で決めています。
日常の言葉でいう「後遺症」があっても、この等級に当てはまると認められなければ、自賠責保険から後遺障害の慰謝料や逸失利益は支払われません(自賠責保険の支払基準 第3。赤い本 2020年版 上巻 436頁・437頁)。
裁判では、14級に届かない後遺症にも、その程度に応じた慰謝料が認められることがあります(同 213頁・214頁)。それでも、後遺障害の慰謝料も将来の収入の減少分も、等級を基準に計算する仕組みになっているため(同 99頁、196頁)、まずは症状に見合った等級の認定を受けることが大切です。
症状固定とは? 損害の計算はどう分かれる?

労災保険では、これを「治癒」と呼んでいます(労災保険の実務と手続き最強ガイド 改訂2版 64頁)。自賠責保険の等級の認定も、原則として労災保険の障害等級の認定基準に準じて行われます(赤い本 2020年版 上巻 437頁)。
症状固定の日を境に、損害の計算も分かれます。それまでの治療費、休業損害、入通院の慰謝料は「けがの損害」、それから先の収入の減少分(逸失利益)と後遺障害の慰謝料は「後遺障害の損害」として計算します(赤い本 2020年版 上巻 99頁、435頁〜437頁)。

「そろそろ症状固定に」と言われても
症状固定のあとの治療費は、認められないことが多くなります(赤い本 2020年版 上巻 7頁)。保険会社から「そろそろ症状固定に」と言われても、それだけで決まるものではありません。治療で良くなっているかどうかを、主治医とよく相談してください。
詳しくは症状固定とは何かを、治療費の支払を打ち切ると言われたときは交通事故で「治療費打ち切り」に遭った場合の対処方法をご覧ください。
等級の認定はどう受ける? 事前認定と被害者請求
症状固定のあと、主治医に後遺障害診断書を書いてもらい、自賠責保険に等級の認定を求めます。流れは次のとおりです。
- 症状固定治療で良くなっているかどうかを、主治医とよく相談します
- 主治医に後遺障害診断書を書いてもらう
- 自賠責保険に等級の認定を求める事前認定か被害者請求のどちらかで(下のカード)
- 提出された書類をもとに調査される調査は、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所が行います。判断の難しい事案は地区本部や本部で、特定の事案は弁護士や医師など外部の有識者が加わる自賠責保険(共済)審査会で審査されます(損害保険料率算出機構「当機構で行う損害調査」)
- 結果が出る納得できないときの方法は、下の「非該当・等級に納得できないときは?」で説明します
認定を受ける方法は、次の2つです。
- 被害者の手間は少なくて済む
- どの資料を出すかは、相手の保険会社に任せることになる
- 出す資料を被害者の側で整えることができる
- 等級が認められれば、示談の前でも自賠責保険の保険金額の範囲で支払を受けられる
- 保険会社は、支払ったときは認めた等級とその理由などを、支払わないときはその理由を、書面で示さなければならない(自賠法16条の4第2項・3項)
- 被害者請求の権利は、損害と相手の車の保有者を知った時から3年で時効にかかる(自賠法19条)
被害者請求で示されるこの書面は、結果に納得できないときに、何が足りなかったかを考える手がかりになります。やり方は被害者請求のメリット・デメリットとやり方、手続の流れは症状固定したときの後遺障害等級認定手続きで説明しています。
等級はどう決まっている?(別表第一・別表第二)
- 1級:常に介護が必要なもの
- 2級:随時介護が必要なもの
- 重い1級から軽い14級まで分けている
等級の中は「号」に分かれる
各等級には、体のさまざまな部位の障害が「号」に分けて並んでいます。たとえば「局部に神経症状を残すもの」は14級9号、「局部に頑固な神経症状を残すもの」は12級13号で、むちうちなどの痛みやしびれで問題になります。
表にそのまま当てはまらない障害でも、ある等級に相当するものは、その等級として扱われます(別表第二 備考六)。
後遺障害が2つ以上あるときは?(併合)
別表第二の後遺障害が2つ以上あるときは、自賠責保険では、重いほうの等級をもとに、次のように繰り上げた等級の保険金額で支払われます(施行令2条1項3号ロ〜ホ)。
- 5級以上が2つ以上あるとき:重いほうを3級繰り上げる
- 8級以上が2つ以上あるとき:重いほうを2級繰り上げる
- 13級以上が2つ以上あるとき:重いほうを1級繰り上げる(それぞれの等級の保険金額の合計が上限)
- それ以外のとき(14級が2つ以上など):重いほうの等級のまま
たとえば、12級が2つなら11級、8級が2つなら6級になり、14級が2つあっても14級です。
事故の前から同じ部位に後遺障害があり、事故でその程度が重くなったときは、重くなったあとの等級の保険金額から、もとの等級の保険金額を差し引いた額が、自賠責保険の保険金額になります(施行令2条2項)。
何級で、いくら? 全等級の慰謝料と労働能力喪失率

| 等級 | 後遺障害の慰謝料(裁判の基準) | 労働能力喪失率 | 自賠責保険の保険金額 |
|---|---|---|---|
| 別表第一 1級 | 2,800万円 | 100% | 4,000万円 |
| 別表第一 2級 | 2,370万円 | 100% | 3,000万円 |
| 1級 | 2,800万円 | 100% | 3,000万円 |
| 2級 | 2,370万円 | 100% | 2,590万円 |
| 3級 | 1,990万円 | 100% | 2,219万円 |
| 4級 | 1,670万円 | 92% | 1,889万円 |
| 5級 | 1,400万円 | 79% | 1,574万円 |
| 6級 | 1,180万円 | 67% | 1,296万円 |
| 7級 | 1,000万円 | 56% | 1,051万円 |
| 8級 | 830万円 | 45% | 819万円 |
| 9級 | 690万円 | 35% | 616万円 |
| 10級 | 550万円 | 27% | 461万円 |
| 11級 | 420万円 | 20% | 331万円 |
| 12級 | 290万円 | 14% | 224万円 |
| 13級 | 180万円 | 9% | 139万円 |
| 14級 | 110万円 | 5% | 75万円 |
「別表第一」とあるもののほかは別表第二の等級です。慰謝料は裁判で使われる基準(いわゆる赤い本)の目安で、1級・2級などの重い後遺障害では、ご家族自身の慰謝料が問題になることもあります(赤い本 2020年版 上巻 196頁)。保険金額は施行令の別表によります。
労働能力喪失率は、後遺障害によって働く力がどれだけ失われたかを示す割合です。裁判では、労働省労働基準局長の通牒(昭和32年7月2日基発第551号)の労働能力喪失率表を参考に、職業、年齢、後遺障害の部位や程度、事故の前後の働き方などを総合して判断されます(同 99頁。自賠責保険の支払基準の表は同 441頁)。
自賠責保険の後遺障害分は、保険金額が上限
自賠責保険から支払われる後遺障害の分は、慰謝料と逸失利益などを合わせて、表の保険金額が上限です(支払基準 第1・第3。赤い本 2020年版 上巻 435頁〜437頁)。これを超える損害は、相手や相手の任意保険会社に請求します。
計算の例:逸失利益と慰謝料はいくら?
将来の収入の減少分(逸失利益)は、「事故の前の年収 × 労働能力喪失率 × 労働能力を失う期間に応じたライプニッツ係数」で計算します(赤い本 2020年版 上巻 99頁・100頁)。
期間は症状固定の日から原則67歳までです。ただ、むちうちの場合は、12級なら10年程度、14級なら5年程度とする裁判例が多くあります(赤い本 2020年版 上巻 99頁)。
ライプニッツ係数は、将来の収入を前もって受け取る分の利息を差し引くためのもので、令和2年4月1日から令和11年3月31日までの事故では年3%で計算します(民法404条、417条の2、722条1項。法務省「令和8年4月1日以降の法定利率について」)。
症状固定の時に45歳、年収400万円の会社員を例にします(係数は赤い本 2020年版 上巻 429頁の年3%の表によります)。
- 逸失利益 892万4,664円
(400万円 × 14%
× 15.9369) - 慰謝料 290万円
- 逸失利益 477万6,912円
(400万円 × 14%
× 8.5302) - 慰謝料 290万円
- 逸失利益 91万5,940円
(400万円 × 5%
× 4.5797) - 慰謝料 110万円
自賠責保険の保険金額は12級で224万円、14級で75万円ですから、裁判の基準で計算した額との差は小さくありません。実際の額は、収入の資料、仕事への影響、過失割合、すでに受け取った保険金などで変わります。計算の考え方は交通事故の逸失利益とは?職業別の計算方法、慰謝料の基準の違いは後遺障害の慰謝料計算基準の比較と計算方法で説明しています。
認定には、どんな資料が要る?

そろえたい資料
- 後遺障害診断書:主治医に、残った症状を具体的に、画像や検査の結果など症状を裏付ける所見も漏れなく書いてもらいます。
- 画像:レントゲン、CT、MRIなど。事故の直後と、その後の経過の画像をそろえます。
- 部位ごとの検査の結果:神経の検査、関節の動く範囲の測定、視力・聴力の検査など。必要な検査は各部位の頁で説明しています。
- 通院の記録:事故の直後から同じ症状を訴え、治療を続けてきたことが分かる診断書、診療報酬明細書、カルテ。
- 事故の状況の資料:交通事故証明書、車の壊れ方が分かる写真や修理の見積書。
- 生活や仕事への影響の記録:ご家族から見たふだんの様子、仕事を休んだことなどを示す資料。
非該当・等級に納得できないときは?

後遺障害に当たらない(非該当)とされたり、思っていたより低い等級とされたりしたときは、次の方法があります。
異議申立て
自賠責保険の結果に不服があるときに、保険会社に改めて請求し、判断のやり直しを求める手続です。異議申立てのあった事案は、特に慎重に判断するものとされています(損害保険料率算出機構「当機構で行う損害調査」)。
最初の判断の理由を読み、足りなかった資料(新しい画像や検査の結果、主治医の意見書など)を補って出すことが大切です。詳しくは後遺障害の異議申立てをご覧ください。
自賠責保険・共済紛争処理機構への申立て

費用は原則無料で、書類をもとに審査されるため、出向く必要はありません。結果に不満があっても再び申し立てることはできませんが、裁判は起こせます(同機構「紛争処理制度について」)。
裁判

自賠責保険の認定と異なる判断がされることもあり、自賠責保険より高い等級や労働能力喪失率が認められる場合もあります(赤い本 2020年版 上巻 127頁〜157頁)。ただし、裁判の判断が自賠責保険より有利になるとは限りません。
損害賠償の請求にも時効があります
人の体を傷つけた事故の損害賠償の請求権は、損害と加害者を知った時から5年で時効にかかります(民法724条1号・724条の2)。
部位ごとの基準や検査は?(けがの部位ごとの頁)

脳・脊髄の障害や心の不調は、神経系統の機能又は精神の障害として等級が判断されます(厚生労働省「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」)。
| 部位 | 主な後遺障害と等級の例 | 詳しい頁 |
|---|---|---|
| 頭部・脳 | 高次脳機能障害など(別表第一 1級1号・2級1号、別表第二 3級3号・5級2号・7級4号・9級10号) | 頭部・脳の後遺障害 |
| 顔(目・耳・鼻・口・歯) | 視力・聴力の低下、そしゃく・言語の障害、歯の障害(3歯以上に歯科補てつを加えたもので14級2号など) | 顔(目・耳・鼻・口・歯)の後遺障害 |
| 首・背中・腰 | 痛み・しびれ(14級9号・12級13号)、背骨の変形(11級7号)、背骨の運動障害(8級2号) | 首・背中・腰の後遺障害 |
| 脊髄・神経 | 脊髄損傷による手足のまひなど(別表第一 1級1号・2級1号、別表第二 3級3号・5級2号・7級4号・9級10号・12級13号) | 脊髄・神経の後遺障害 |
| 肩・腕・手 | 腕の関節の機能障害(12級6号・10級10号・8級6号)、手指の障害 | 肩・腕・手の後遺障害 |
| 骨盤・脚・足 | 脚の関節の機能障害(12級7号・10級11号・8級7号)、脚の短縮(13級8号・10級8号・8級5号)、骨盤骨の変形(12級5号) | 骨盤・脚・足の後遺障害 |
| 胸・お腹の臓器 | 胸腹部臓器の機能の障害(別表第一 1級2号・2級2号、別表第二 3級4号から13級11号まで) | 胸・お腹の臓器の後遺障害 |
| 傷あと | 顔など外貌の醜状(7級12号・9級16号・12級14号)、腕・脚の露出面のてのひら大の傷あと(14級4号・5号) | 傷あとの後遺障害(醜状障害) |
| 心の不調 | PTSDやうつ状態など、脳の損傷によらない精神の障害(9級10号・12級13号・14級9号) | 心の不調(PTSD・うつ状態)の後遺障害 |
こんなときはご相談ください

ひとつでも当てはまったら
- 保険会社から「そろそろ症状固定に」と言われた、治療費の打ち切りを告げられた
- 後遺障害診断書を、主治医にどう書いてもらえばよいか分からない
- 事前認定と被害者請求のどちらにするか迷っている
- 非該当とされた、または思っていたより低い等級だった
- 後遺障害が複数の部位に残った
- 事故の前から持病や古いけががあった
- 保険会社の示談の提示額が、認められた等級に見合っているか知りたい
参考文献
- 自動車損害賠償保障法 16条1項、16条の4第2項・3項、19条、23条の5〜23条の7
- 自動車損害賠償保障法施行令 2条、別表第一・別表第二(備考六を含む)
- 民法404条、417条の2、722条1項、724条、724条の2
- 自賠責保険の支払基準(令和2年4月1日以降の事故に適用するもの。赤い本 2020年版 上巻 435頁〜441頁に所収)
- 公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(赤い本)2020年版 上巻 7頁、99頁・100頁、127頁〜157頁、196頁、213頁・214頁、429頁、435頁〜437頁、441頁
- HRプラス社会保険労務士法人『労災保険の実務と手続き最強ガイド 改訂2版』(アニモ出版)64頁
- 損害保険料率算出機構「当機構で行う損害調査」
- 厚生労働省「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」(平成15年8月8日)
- 一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構「紛争処理制度について」
- 法務省「令和8年4月1日以降の法定利率について」



