この記事のポイント
- 治療費の打ち切り、後遺障害、過失割合、保険会社からの提示額の4つの場面が、弁護士への相談を考える分かれ目になりやすいところです。
- 施術費は、症状固定までの必要かつ相当な施術の費用であることが出発点とされています。医師の指示・同意の記録と施術録が大切です。
- 後遺障害診断書を書けるのは医師だけ。患者さんには整形外科への通院を続けていただくことが大切です。
- 当事務所は、ご紹介への謝礼をお支払いせず、お受け取りもしません。
この頁は、交通事故でけがをした患者さんを施術している整骨院(接骨院)の方と、事故に遭ったお客さまから相談を受ける保険代理店の方に向けたものです。


ここでは、弁護士につなぐ目安、施術費が争われやすい点、弁護士費用特約、ご紹介についての当事務所の決め事を、法令と文献に沿ってまとめました。当事務所は交通事故の損害賠償の事件に力を入れて取り組んでいます。
どんなときに弁護士につなげばいい?
次のような話を聞いたときが、弁護士への相談をすすめる目安です。
保険会社が、病院や整骨院への直接の支払を終えると告げる
主治医が治療を続ける必要があると考えているか。健康保険に切り替えて通院を続けるか
痛みやしびれが残ったまま、治療が終わりそうになっている
整形外科での通院の記録、画像、神経の検査、後遺障害診断書の準備
保険会社から「お客さまにも過失がある」と言われた
事故の形、ドライブレコーダーの映像、実況見分調書などの記録
示談書や賠償額の計算書が届いた
慰謝料や逸失利益が、どの基準で計算されているか
治療費・施術費が打ち切られたら?
任意保険会社が治療費を病院などに直接支払う「一括払い」は、自賠責保険の分も含めて、任意保険会社がまとめて立て替える仕組みです(交通事故におけるむち打ち損傷問題〔第3版〕88頁・89頁)。打ち切りは、保険会社がこの立替えをやめるということで、それだけで治療が要らなくなったと決まるわけではありません。
- 事故交通事故でけがをして、病院や整骨院へ
- 治療中一括払い:任意保険会社が、自賠責保険の分も含めて、治療費を病院などに直接支払う
- 打ち
切り保険会社が立替えをやめる。それだけで治療が要らなくなったと決まるわけではない - その
あと健康保険を使って治療を続けられる。症状固定までの必要かつ相当な治療なら、患者さんが支払った分も、あとで請求の対象に - 症状
固定このあとの治療費は、原則として賠償の対象にならない
ただし、症状固定(治療を続けてもそれ以上よくならない状態)のあとの治療費は、原則として賠償の対象になりません(同 74頁)。いつを症状固定とみるかは、裁判では事故の衝撃の程度、治療の経過、他覚所見の有無などから判断され、基本的には主治医の診断が尊重される傾向にあるとされています(同 75頁。症状固定とは何か)。
治療費は、必要かつ相当な実費の全額が損害になるとされています(赤い本 2020年版 上巻 1頁)。そのため、症状固定までの必要かつ相当な治療であれば、打ち切りのあとに患者さんが支払った分も、あとで請求の対象になります。
打ち切りのあとも、健康保険を使って治療を続けることができます(交通事故におけるむち打ち損傷問題〔第3版〕84頁、赤い本 2020年版 上巻 1頁)。病院によっては自賠責保険の書式の診断書などを書いてもらえないことがあるため、事前に病院と相談するよう勧められています(赤い本 同頁)。対応の流れは治療費打ち切りへの対処方法で説明しています。
痛みやしびれが残りそうなときは?
痛みやしびれが残ったときは、自動車損害賠償保障法施行令 別表第二の12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」や14級9号「局部に神経症状を残すもの」にあたるかどうかが問われます。自賠責保険から支払われる後遺障害の分の上限(保険金額)は、12級で224万円、14級で75万円です(同令 別表第二)。

整骨院だけに通っていた期間が長いと、その間の症状の経過を医師の記録で示せず、残った症状が事故によるものかを判断しにくくなることがあります(同 169頁・171頁)。症状が残りそうな患者さんには、整形外科にも通い続けるよう伝えていただくことが大切です。部位ごとの等級と検査は、交通事故の後遺障害の頁にまとめています。
「お客さまにも過失がある」と言われたら?

過失割合の目安としては、東京地裁民事第27部の裁判官が関わった別冊判例タイムズ38号の基準があり、事故の形ごとの基本の割合と修正要素を組み合わせて割合を出す作りになっています。同書は、修正要素の数値も一律に当てはめず、事案に応じて増減させる使い方を求めています(別冊判例タイムズ38号 43頁)。
どの基準にあたるかは事故の態様で決まるため、ドライブレコーダーの映像や、実況見分調書などの刑事記録が大切です。
刑事記録には保存の期間があります
刑事記録は事故の態様を示す直接的で有力な証拠とされ、保存の期間を過ぎると手に入らなくなります(別冊判例タイムズ38号 5頁)。
過失がつく事故では、治療費のうち過失の分は、最後の清算で被害者の負担になります。治療費や施術費が高くなるほど、被害者が受け取る額が減ることもあります(交通事故におけるむち打ち損傷問題〔第3版〕84頁)。事故の形ごとの基本の割合は、交通事故の過失割合の頁で説明しています。
保険会社の提示額は、どこを確かめる?

32万円
110万円
75万円
94万円
290万円
224万円
支払基準は令和2年4月1日以降の事故に適用されるもので、けが(傷害)の慰謝料は1日4,300円です(赤い本 2020年版 上巻 436頁・437頁)。裁判の基準の目安は同書 196頁、保険金額は自動車損害賠償保障法施行令 別表第二によります。
提示された額が、どの基準でどの項目を計算したものかを確かめることが出発点です(提示された賠償額が適正か)。
計算例:等級と過失割合で、額はどれくらい変わる?
症状固定の時に35歳、事故の前の年収が400万円の会社員に、首の痛みやしびれ(神経症状)が残った場合で、後遺障害の部分(逸失利益と慰謝料)だけを裁判の基準で計算してみます。
逸失利益は「基礎収入 × 労働能力喪失率 × 喪失期間に応じたライプニッツ係数」で計算し、生活費は差し引きません(赤い本 2020年版 上巻 100頁)。
- 喪失率:14級5%・12級14%(同 441頁)
- 喪失期間:むち打ち症で多い例にならって14級5年・12級10年としました(同 99頁。実際には症状に応じて判断されます)
- 係数:令和2年4月1日から令和11年3月31日までの事故に使う年3%のもの(同 429頁。民法404条、417条の2、722条1項、法務省「令和8年4月1日以降の法定利率について」)
| 等級と喪失期間 | 14級9号・5年 | 12級13号・10年 |
|---|---|---|
| 逸失利益 | 400万円 × 5% × 4.5797 = 91万5,940円 | 400万円 × 14% × 8.5302 = 477万6,912円 |
| 後遺障害の慰謝料 | 110万円 | 290万円 |
| 合計 | 201万5,940円 | 767万6,912円 |
| 自賠責保険の保険金額(上限) | 75万円 | 224万円 |
14級か12級かで、後遺障害の部分だけで約566万円の差が出ます。自賠責保険の上限を超える分は、相手方や任意保険会社に請求します。
また、過失割合が1割違うと、この後遺障害の部分だけでも、14級の例で約20万円、12級の例で約77万円変わります。実際の額は、収入の資料、仕事への影響、すでに受け取った保険金などで変わります。
施術費は、どこが争われやすい?
自賠責保険の支払基準は、免許を持つ柔道整復師などが行う施術の費用を「必要かつ妥当な実費」として支払の対象にしています(赤い本 2020年版 上巻 436頁)。裁判では、施術費は、症状に照らして有効で相当といえるときに認められる傾向にあり、医師の指示があるときはなおさらだとされています(同 3頁)。

医師の「指示」と「同意」は、どう違う?
- ただし、指示があれば全額が当然に認められるわけではありません(講演 29頁)
- 施術の内容を知ったうえでのはっきりした同意か、黙認に近いものかでも重みが変わるとされています(講演 30頁)
骨折・脱臼の患部は、応急手当を除き医師の同意が要ります
骨折や脱臼の患部への施術は、応急手当の場合を除き、医師の同意を得なければできません(柔道整復師法17条。違反には罰金の定めがあります。同法30条2号)。講演では、この同意は、前もってまとめて得ておくことはできず、医師が患者さんを診察したうえで与えたものでなければならないとされています(講演 31頁)。
同意がないまま行われた施術の費用は、応急手当と認められる限度を除き、原則として損害と認められないとされる一方、同意は書面でも口頭でもよく、どの医師から同意を得たかが施術録に書かれていれば、立証として足りると考えられています(講演 32頁)。

必要性と相当性は、どんな点から判断される?
講演では、施術費が認められるかを、次の5つの点を総合して判断するとしています(講演 28頁〜30頁)。
施術費を判断する5つの点
- 施術の必要性:施術が必要な体の状態にあったか
- 施術の有効性:施術によって症状が和らいだか
- 施術内容の合理性:けがと症状に照らして過剰でなく、症状のある部位に行われたか
- 施術期間の相当性:けがの内容、経過、効果からみて、続けた期間が長すぎないか
- 施術費の相当性:料金が社会一般の水準と比べて妥当か
「6か月」は一応の目安にすぎません
初めての施術から6か月という期間は、講演では、あくまで一応の目安にすぎず、施術期間の相当性も、施術が相当かを判断する要素の一つにすぎないとされています。
事故の直後から頻繁に(ときにはほぼ毎日)通い、施術の内容も頻度もあまり変わらないまま6か月で急にやめ、高額な施術費を請求するような場合には、必要性、有効性、合理性のほか、施術費の相当性についても疑問を持たれることがあるとされています(講演 29頁・30頁)。
また、施術録に書かれた施術が実際に行われたかが争われる事案が増えているとの指摘もあり、施術録の記載は、施術が行われたことを一応推認させるものと位置づけられています(講演 28頁)。
全額が認められないときは、施術費の何割かに限って認める裁判例が多いとされています(講演 32頁・33頁)。
なぜ整形外科にも通っていただくの?

整骨院は医療機関ではないため、診断書や後遺障害診断書を作れません(同 169頁)。整骨院に通うことはできますが、症状を証明するには整形外科にも一定の頻度で通うことが望ましく、整骨院だけの期間が長いと、その間の症状が途切れずに続いていたことを示せなくなります(同 171頁)。
後遺障害の申請のためにも、医師の指示や同意を得るためにも、整形外科への通院を続けていただくことが大切です。
どんな記録を残しておけばいい?
残しておきたい記録
- 事故のあと早めの整形外科の受診:事故から初めての受診までの間が空くと、事故との関係を認めてもらうのが難しくなるとされています(むち打ち損傷ハンドブック 第4版 171頁)。先に整骨院に来られた患者さんには、整形外科の受診をすすめてください。
- 医師の指示・同意の記録:どの医師から、いつ、どの部位の施術について指示や同意を得たかを施術録に書いておきます。紹介状や診療情報提供書があれば保管します。
- 施術録:施術した日、部位、内容と、症状がどう変わったか。施術の有効性を示す記録になります。
- 整形外科の記録:診断書、診療報酬明細書、画像、神経の検査の結果。後遺障害では、自覚症状と、画像や神経の検査の結果が合っているかが問われます(同 171頁)。
- 事故の記録(保険代理店の方):交通事故証明書、ドライブレコーダーの映像、車の写真と修理の見積書、保険証券(弁護士費用特約が付いているか)。
弁護士費用特約は、どんなときに使える?
弁護士費用特約(弁護士費用保険)は、自動車保険、火災保険、傷害保険などに特約として付けられ、事故の被害に遭って弁護士に相談や依頼をしたときの法律相談料や弁護士費用が、保険会社や共済から支払われるものです。
商品によってはご家族も対象になり、すでに知っている弁護士に依頼する場合でも使えるとされています(日本弁護士連合会「弁護士費用保険(権利保護保険)について」)。

代理店の方
ご家族の契約まで確かめてください
使えるかどうか、誰が使えるか、支払われる額の上限は、契約ごとの約款で決まります。保険代理店の方には、お客さまご本人の契約だけでなく、ご家族の契約に特約が付いていないかも確かめていただくと、使える契約が見つかることがあります。
使い方は弁護士特約の使い方で、当事務所の費用は弁護士費用の頁で説明しています。
ご紹介について、当事務所の決め事は?
紹介への謝礼は、お支払いせず、お受け取りもしません
弁護士は、依頼者の紹介を受けたことに対する謝礼その他の対価を支払ってはならず、依頼者を紹介したことに対する対価を受け取ってもなりません(弁護士職務基本規程13条)。

また、弁護士でない者が、報酬を得る目的で法律事件の周旋を業とすることは禁じられており(弁護士法72条)、弁護士は、これに違反する者から事件の周旋を受けてはなりません(同法27条)。違反すると疑うに足りる相当な理由のある者からの紹介も同じです(弁護士職務基本規程11条)。
そのため、名目を問わず、報酬を得て事件の紹介を業としている方からのご紹介はお受けしません。
ご紹介のしかたと秘密の保持

事件の内容は弁護士の守秘義務の対象になるため(弁護士法23条、弁護士職務基本規程23条)、紹介してくださった方への経過のご報告は、ご本人の了解がある範囲に限られます。
こんなときはご相談ください

ひとつでも当てはまったら
- 患者さんが、保険会社から治療費や施術費の支払を打ち切ると告げられた(整骨院の方)
- 施術の必要性や施術費の額を、保険会社から争われている(整骨院の方)
- 痛みやしびれが残りそうな患者さんが、後遺障害の申請を考えている(首・背中・腰の後遺障害)
- 後遺障害の申請をしたが、非該当だった(異議申立て)
- お客さまが、保険会社から示された過失割合や賠償額に納得していない(保険代理店の方)
- 弁護士費用特約を使って相談できるか知りたいお客さまがいる(保険代理店の方)
参考文献
- 自動車損害賠償保障法施行令 別表第二(12級13号、14級9号と保険金額)
- 「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号。令和2年4月1日以降の事故に適用するもの)
- 柔道整復師法17条、30条
- 民法404条、417条の2、722条
- 弁護士法23条、27条、72条
- 日本弁護士連合会「弁護士職務基本規程」(平成16年11月10日会規第70号)11条、13条、22条1項、23条
- 公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(赤い本)2020年版 上巻 1頁、3頁、99頁・100頁、196頁、429頁、436頁・437頁、441頁
- 吉岡透「整骨院における施術費について」公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』2018年版 下巻(講演録編)27頁〜33頁
- 栗宇一樹・古笛恵子編著『交通事故におけるむち打ち損傷問題〔第3版〕』(保険毎日新聞社)74頁・75頁、84頁、88頁・89頁
- 遠藤健司・西村浩輔編著『むち打ち損傷ハンドブック 第4版』(丸善出版)119頁、169頁、171頁・172頁
- 東京地裁民事交通訴訟研究会編『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版』別冊判例タイムズ38号(判例タイムズ社)5頁、43頁
- 日本弁護士連合会「弁護士費用保険(権利保護保険)について」
- 法務省「令和8年4月1日以降の法定利率について」



