この記事のポイント
- 胸やお腹を強く打つと、肋骨の骨折だけでなく、肺や心臓、肝臓・脾臓・腎臓、膵臓や腸といった臓器が傷つくことがあります。どの臓器が傷つくかは、力が加わった場所と向きで変わります。
- 臓器の後遺障害は、痛みやしびれの等級とは違い、検査の数値や手術の内容で等級が決まります。等級は、介護の要否と、どの程度の仕事ができるかで、1級から13級までに分かれます。
- 認めてもらうには、事故の直後からの診療記録と画像、手術記録、臓器ごとの検査の数値、生活や仕事への影響の記録が大切です。


交通事故で胸やお腹を強く打つと、肋骨の骨折だけでなく、肺や心臓、肝臓・脾臓・腎臓、膵臓や腸といった臓器が傷つくことがあります。命に関わることもあるけがで、出血を止めるために臓器の一部や全部を手術で取り除くこともあります。
治療を終えたあとも、息切れが続く、臓器を失った、尿もれや性機能の障害が残った、というときは、後遺障害の等級が認められることがあります。
臓器の後遺障害は外から見て分かりにくく、痛みやしびれの等級とは違って、検査の数値や手術の内容で等級が決まるのが特徴です。この頁では、胸・お腹の臓器のけがの特徴と、等級の決まり方、賠償の目安、等級を認めてもらうために必要な検査と資料を、交通事故を扱う弁護士がまとめました。
胸・お腹の臓器には、どんなけがが多い?
どの臓器が傷つくかは、体のどこに、どの向きから力が加わったかで変わります。
肋骨の骨折と肺のけが
胸のけがで多いのは肋骨の骨折で、入院が必要になった胸のけがの約7割にみられたという報告があります。下のほうの肋骨(第10〜12肋骨)の骨折では、右側なら肝臓・腎臓、左側なら脾臓・腎臓のけがに注意が必要とされています(交通外傷 メカニズムから診療まで 154頁)。
血胸・気胸・肺挫傷とは
胸では、次のようなけがが起こることがあります(標準救急医学 第5版 391頁・392頁)。
- 血胸:肋骨が折れた所から出血して、胸に血液がたまる
- 気胸:肺の表面が破れて、胸に空気がたまる
- 肺挫傷:肺の中に細かな傷と出血が広がる。範囲が狭ければ症状が出ないこともあるが、広いと人工呼吸器を使っても十分な呼吸ができず、命に関わることがある
心臓・大動脈・横隔膜のけが
心臓が胸の壁に強く打ちつけられると、心臓の筋肉が傷つく心筋挫傷が起こり、不整脈の原因になります。急に止まった勢いで、胸の大動脈が傷つくこともあります(標準救急医学 第5版 394頁)。
お腹に強い力が加わって横隔膜が破れると、胃や腸などが胸の中に入り込み、肺や心臓が押されて呼吸が苦しくなることがあります(標準救急医学 第5版 395頁、交通外傷 メカニズムから診療まで 166頁)。
肝臓・脾臓のけが
肝臓と脾臓は、お腹のけがで傷つくことの多い臓器で、主な問題は出血です(標準救急医学 第5版 401頁・402頁、交通外傷 メカニズムから診療まで 166頁)。
今は、血圧などが安定していれば、手術をせずに、安静にして様子をみたり、カテーテルで出血している血管をふさいだり(TAE)して治すことが増えています(標準救急医学 第5版 401頁・410頁)。
脾臓を取る手術と、そのあとの感染症
脾臓は、出血で血圧が保てず急いで手術をするときは、摘出が第一の選択とされます。脾臓を失ったあとは、脾臓摘出後重症感染症と呼ばれる重い感染症が知られています(交通外傷 メカニズムから診療まで 169頁)。
とくに子どもでは肺炎球菌などによる重い感染症のおそれが高く、ワクチンなどの予防策を検討するとされています(外傷初期診療ガイドライン JATEC 改訂第6版 209頁)。
腎臓のけが
腎臓は、肝臓・脾臓に次いで傷つくことの多いお腹の臓器です。背中側にあり、横からの衝突や、急に止まった勢いで付け根の血管が引きちぎられることで傷つきます(交通外傷 メカニズムから診療まで 166頁・170頁・171頁)。

治療ではできるだけ腎臓の働きを残しますが、出血で血圧が保てず手術をするとき、付け根(腎茎部)が傷ついていれば、多くは摘出されます(交通外傷 メカニズムから診療まで 170頁・171頁)。
膵臓・腸のけが(ハンドルやシートベルトによるもの)
膵臓や十二指腸は背骨のすぐ前にあり、ハンドルやシートベルトで背骨との間に挟まれて傷つきます(標準救急医学 第5版 402頁、交通外傷 メカニズムから診療まで 166頁・171頁)。
膵臓のけがは、見つかるのが遅れることがあります
膵臓のけがは、初めは症状や検査の異常がはっきりせず、最初のCTでは見つけにくいことがあり、見つかるのが遅れると合併症が増えます(標準救急医学 第5版 401頁、交通外傷 メカニズムから診療まで 173頁)。
膵液の通り道(主膵管)が傷ついているときは、膵臓の一部を切り取る手術を行うのが基本とされます(交通外傷 メカニズムから診療まで 172頁)。
腸は、シートベルトの腰の部分が骨盤からずれてお腹に食い込むと、背骨との間に挟まれて傷つきます(交通外傷 メカニズムから診療まで 175頁・177頁)。ベルトの痕が腰骨の出っ張りより上にあるときは、臓器のけがが多いとされます(標準救急医学 第5版 403頁)。
小腸では、まれですが、打った所の血の流れが悪くなり、数日から数か月たって腸が狭くなって腸閉塞を起こすことがあります(標準救急医学 第5版 402頁)。大腸のけがが重いときは、人工肛門をつくることがあります(交通外傷 メカニズムから診療まで 176頁)。
膀胱・尿道・生殖器のけが(骨盤の骨折に伴うもの)
膀胱のけがの多くは、恥骨の骨折に伴って起こります(標準救急医学 第5版 403頁)。

仙骨(骨盤の後ろの骨)の中央に近い部分の骨折で神経が傷ついた例では、7割以上に排尿・排便の障害や性機能の障害が起こるとされています(交通外傷 メカニズムから診療まで 195頁)。
骨盤の骨折そのものの後遺障害は骨盤・脚・足の後遺障害を、脊髄の損傷による排尿の障害は脊髄・神経の後遺障害をご覧ください。
胸腹部臓器の等級は、どう決まる?
自動車損害賠償保障法施行令の別表は、臓器ごとに等級を分けず、「胸腹部臓器の機能」に残った障害を、介護の要否と、どの程度の仕事ができるかで、1級から13級までに分けています。生殖器は別に定められています。
| 等級 | 後遺障害の内容 |
|---|---|
| 別表第一 1級2号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
| 別表第一 2級2号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
| 別表第二 3級4号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
| 別表第二 5級3号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
| 別表第二 7級5号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
| 別表第二 7級13号 | 両側のこう丸を失つたもの |
| 別表第二 9級11号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
| 別表第二 9級17号 | 生殖器に著しい障害を残すもの |
| 別表第二 11級10号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
| 別表第二 13級11号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの |
臓器ごとの主な基準は?
自賠責保険の等級の認定は、原則として労災保険の認定基準に準じて行われます(自賠責保険の支払基準 第3)。
胸・お腹の臓器については、労災保険の「胸腹部臓器の障害に関する障害等級認定基準」(以下「認定基準」)が、臓器ごとに検査の数値や手術の内容で等級を定めています。主なものは次のとおりです。
| 臓器 | 主な基準と等級(認定基準) |
|---|---|
| 肺(呼吸の働き) | 動脈血の酸素と炭酸ガスの分圧(動脈血ガス分析)、スパイロメトリー(1秒量・肺活量)と息切れの程度、運動負荷試験で判断します。動脈血の酸素分圧が50Torr以下なら3級(介護が必要なら1級・2級)。50Torrを超え60Torr以下なら、炭酸ガス分圧が37〜43Torrの範囲から外れていれば3級(介護が必要なら1級・2級)、範囲内なら5級。60Torrを超え70Torr以下なら、範囲から外れていれば7級、範囲内なら9級。70Torrを超えても、範囲から外れていれば11級。 |
| 心臓・大動脈 | 心臓の働きが落ち、おおむね6METs(メッツ。体を動かす強さの単位)を超える身体活動が制限されるものは9級、おおむね8METsを超えるものが制限されるものは11級。除細動器の植込みは7級、ペースメーカの植込みは9級。心臓の弁を置き換え、血液を固まりにくくする薬を続けるものは9級、それ以外は11級。偽腔開存型の大動脈解離が残るものは11級。 |
| 脾臓・胆のう | 失ったものは13級。 |
| 腎臓 | 片方を失い、糸球体濾過値(GFR)が30ml/分を超え50ml/分以下なら7級、50を超え70以下なら9級、70を超え90以下なら11級、それ以外は13級。失っていなくても、GFRが30を超え50以下なら9級、50を超え70以下なら11級、70を超え90以下なら13級。 |
| 膵臓 | 外分泌(消化液を出す働き)と内分泌(ホルモンを出す働き)の両方に障害があれば9級、どちらかなら11級。 |
| 小腸・大腸 | 人工肛門をつくったものは7級。そのうち、腸の内容物が漏れて人工肛門のまわりの皮膚がひどくただれ、パウチなどを付けられないものは5級。小腸を切除し、残った長さが100cm以下のものは9級。 |
| 排尿(膀胱・尿道) | 膀胱の働きの障害で、残尿が100ml以上なら9級、50ml以上100ml未満なら11級。尿もれ(尿失禁)は程度に応じて7級・9級・11級。昼間に8回以上トイレに行き、膀胱が小さくなったり神経が傷ついたりしているなどの条件を満たす頻尿は11級。 |
| 生殖器 | 両側の精巣を失ったものは7級13号で、精子がない状態が続くもの、両側の卵巣を失ったものなども7級に準じます。陰茎の大部分を失い性交ができないもの、勃起障害、射精障害、子宮を失ったものなどは9級17号。片方の精巣や卵巣を失ったものは13級に準じます。 |
息切れの程度と、複数の臓器に障害が残ったとき
息切れの程度は、「高度」が続けておおむね100m以上歩けないもの、「軽度」が健康な人と同じようには階段を上り下りできないもの、とされています。障害が複数の臓器に残ったときは、併合の方法を使って全体の等級を決めます(いずれも認定基準)。
脾臓・腎臓を失ったときの等級は、事故の日で違う?
平成18年4月1日の前と後で、等級が違います
平成18年4月1日より前の事故では、脾臓や片方の腎臓を失ったものは8級11号とされていました。それ以後の事故では13級11号に含まれることになり、等級が下がりました(赤い本 2020年版 上巻 153頁)。
今は、片方の腎臓を失ったときは、残った腎臓の働き(GFR)によって13級より上になることもあります(認定基準)。
肋骨の変形や手術の傷あとは?
肋骨の変形が12級5号に当たるのは
肋骨が曲がってついたときは、裸になったときに変形がはっきり分かる程度なら、「鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの」(12級5号)に当たります。
レントゲンで初めて分かる程度のものは当たらず、肋骨の変形は、何本に及んでいても、肋骨全体で一つの障害として扱われます(せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準)。
手術の傷あとは傷あとの後遺障害をご覧ください。
等級ごとの賠償は、いくらが目安?
| 等級 | 後遺障害の慰謝料(裁判の基準) | 労働能力喪失率 |
|---|---|---|
| 1級 | 2,800万円 | 100% |
| 2級 | 2,370万円 | 100% |
| 3級 | 1,990万円 | 100% |
| 5級 | 1,400万円 | 79% |
| 7級 | 1,000万円 | 56% |
| 9級 | 690万円 | 35% |
| 11級 | 420万円 | 20% |
| 12級 | 290万円 | 14% |
| 13級 | 180万円 | 9% |
慰謝料は、裁判で使われる基準(いわゆる赤い本)の目安です(赤い本 2020年版 上巻 196頁)。労働能力喪失率は、自賠責保険の支払基準の表の割合です(同 441頁)。
このほかに、将来の収入の減少分(逸失利益)を、事故の前の収入に労働能力喪失率と、症状固定から原則67歳までの期間に応じた係数を掛けて計算します(赤い本 2020年版 上巻 99頁・100頁)。計算の方法は交通事故の逸失利益とは?職業別の計算方法で説明しています。
計算例:脾臓を失って13級と認められたとき
症状固定のときに40歳で、年収500万円の方が、脾臓を失って13級と認められたとします。
労働能力喪失率9%、67歳までの27年間で計算すると、逸失利益は、500万円×9%×18.3270(27年のライプニッツ係数)=約825万円です(係数は、令和2年4月1日から令和11年3月31日までの事故の法定利率である年3%によるもの。民法404条、417条の2、722条1項、法務省「令和8年4月1日以降の法定利率について」、赤い本 2020年版 上巻 100頁・429頁)。これに後遺障害の慰謝料180万円が加わります。
ただし、臓器を失っても、すぐに仕事ができなくなるとは限りません。裁判では、表の割合を参考にしながら、職業、年齢、後遺障害の部位と程度、事故の前後の働き方などを総合して労働能力の低下を判断し、将来の転職などでの不利益や日常生活の不便も考えて逸失利益を算定します(赤い本 2020年版 上巻 99頁)。


等級を認めてもらうには、どんな検査と資料が要る?

そろえておきたい検査と資料
- 事故の直後からの診療記録と画像:膵臓や腸のけがは、あとから見つかることがあります(標準救急医学 第5版 401頁・402頁)。救急で撮ったCTや、シートベルトの痕、お腹の打ち身の記録は、事故との関係を示す資料になります。
- 事故の形が分かる資料:膵臓のけがでは、事故の詳しい状況が診断の手がかりになるとされています(交通外傷 メカニズムから診療まで 173頁)。車の壊れ方の写真や実況見分調書などを集めておきます。
- 手術記録:どの臓器を、どれだけ取り除いたかを示します。小腸では、残った長さで等級が変わります(認定基準)。
- 臓器ごとの検査の数値:呼吸なら動脈血ガス分析・スパイロメトリー・運動負荷試験、心臓なら運動の強さ(METs)の評価、腎臓ならGFR、排尿なら残尿量と排尿の回数の記録、勃起障害なら睡眠中の勃起の検査(リジスキャン)などです(認定基準)。症状固定の前に、どの検査を受けるかを主治医と相談してください(症状固定とは何か)。
- 後遺障害診断書:息切れ、動悸、下痢、尿もれなどの自覚症状と、検査の数値、手術の内容を漏れなく書いてもらいます。
- 生活や仕事への影響の記録:感染症の予防のために気をつけていること、食事や運動の制限、仕事や勤務の変化などを記録しておくと、逸失利益を示す資料になります。
こんなときはご相談ください

参考文献
- 自動車損害賠償保障法施行令 別表第一・別表第二
- 自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)第3
- 民法404条、417条の2、722条1項
- 胸腹部臓器の障害に関する障害等級認定基準(平成18年1月25日基発第0125002号)
- せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準(平成16年6月4日基発第0604003号)
- 標準救急医学 第5版(日本救急医学会 監修、医学書院)391頁・392頁、394頁・395頁、401頁〜403頁、410頁
- 一杉正仁・西山慶 編『交通外傷 メカニズムから診療まで』(名古屋大学出版会)74頁、154頁、166頁、168頁〜173頁、175頁〜177頁、195頁
- 外傷初期診療ガイドライン JATEC 改訂第6版(日本外傷学会・日本救急医学会 監修、へるす出版)117頁、209頁
- 標準整形外科学 第14版(医学書院)798頁
- 公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(赤い本)2020年版 上巻 99頁・100頁、153頁、196頁、429頁、441頁
- 法務省「令和8年4月1日以降の法定利率について」



